目を覚ますと、隣にハローくんがいなくて驚いた。
身体を起こすと、彼の着ていたパーカーが脱ぎ捨てられていたのでトイレかどこかに行ってしまったに違いない。
三角座りをしてパーカーを手繰り寄る。膝の上に乗せると、彼の匂いがして安心する。

そういえば最近柚月は変に懐かしさを感じることがなくなった。
代わりに彼といると、知らない感情が味わえて本当の自分を知る旅をしているような気にもなる。

「ゆづちゃん、起きた」
駆け寄ってきたのはハローくんで手にはなぜかシロツメクサの花冠がある。

「あれ、どこに行ってたの?」
「ゆづちゃん、寝てたからさ。そこで子供と遊んでた」
「遊んでたって? お花で?」
「うん」

そう言って柚月の頭にふわりと乗せた。
「可愛い」と笑顔で言うものだから、さすがに照れてしまい「ありがとう」と返すだけでやっとだった。

「俺、忘れてたんだけど、小さいとき、女みたいって仲間外れにされてたと思ってたんだけど、女の子の友達はいたんだよね。だから、こういう遊びは得意だったんだ」

ハローくんが自分の幼い頃の話をするのは珍しくて、自然と聞き入ってしまう。
そして幼少期にも自分には友達がいたことを思い出したことが、またハローくんの表情を柔らげたようだった。

「確かに上手だね。私、もう作り方忘れちゃったかも」
「へへ」
「意外な特技」

ふっと目が合うと、
ハローくんが身体を少し寄せたので、柚月は目をつむった。
唇が優しく重なって、それから目を開けると彼でいっぱいになる。
沈黙が愛おしい。
彼が柚月の長く伸びた毛に指を絡めていると、風が強く吹いた。
2人で思わず見上げると、桜が舞い落ちてくる。
柚月は今という瞬間が永遠のような気がして、そっと彼の肩に身を寄せた。








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