突然、お礼を言われて戸惑い
「何それ」
と素っ気なく返してしまう。

だけど今感じている柚月の気持ちとはなんだろう。
勢いで抱き締めてしまったけれど、笑ってくれた。
てっきり呆れた思いや嫌悪感を抱かれていると思っていたけど、違う気持ちでいたのか。
そんな思いが胸を過る。

「あとハローくんはさ、本当の俺のこと知らないって言ってたじゃん。私、知ってるよ。知らないのはハローくんだけだよ」
「何、ゆづちゃんのいう本当の俺って?」
「ハローくんは人の心を温かくしたり笑顔にしたり、食事をしてると優しい気持ちにさせてくれる人。怒ったり憎んだりしてるのは、本当のハローくんじゃない。偽物だよ」
「……偽物?」

「さっきみたいな怖い顔じゃなくて、今みたいに優しく笑うほうが本当のハローくん。
もしハローくんが勘違いして自分のこと嫌いになったら、私、ハローくんにそのハローくんは嘘だよって教えるね。
私が知ってるハローくんが本当のハローくんなんだって気づいてほしいから」

一瞬、呆気にとられた。
以前自分は優しくないし、本当の俺を知らないと彼女に伝えたことを覚えていて、それを真剣に考えていたようだったから。
そんなつもりで言ったわけではないのに。

そしてハローくんが自分とは思っていない部分が本当の自分だという彼女の思いが伝わると、湧きだした水が広がっていくように、心が澄んでいくのを感じた。

だけど柚月が涙を指で拭うと、さっき彼女が恐怖で泣いたことを思い出し、すぐに濁っていく。

こうして迷惑をかけてしまったことも何とも思っていないような笑顔にも救われるし、自分のせいではないから気にするなという精一杯の気遣いのようにも感じてしまう。

それに、カッとなって殴ってしまう自分が今さら嘘だとは思えない。

返す言葉に迷っていると、柚月はいよいよ力が入らなくなった。

ハローくんも柚月の朦朧としている様子と触れた頬の熱に驚き、支えながら
「ゆづちゃん?」と呼びかける。
「ごめん、なんかちょっと頭が朦朧としてきて、ごめん」
「ゆづちゃん?」

そこで意識が途絶えた。