「柚月さん、本当にすみません」
「ううん。大丈夫」

大丈夫ではないけど、そうとしか言いようがない。今となってはどうしようもないことだ。
あれから――柚月をハローくんの彼女だと騒ぎだし否定をしても信じてもらえず、一緒にいたミッチーも一瞬でのされてしまった。

そして近くの廃工場まで連れてこられ、今に至る。
柚月たちがいるのは恐らく事務所として使われていたようなところだろう。
錆びたデスクや椅子がそのまま置かれていて、冷たい床に手足を拘束されたまま座らされていた。
ハローくんを呼び出すということで、一度、向こうの工場の方へミッチーは連れていかれたが、すぐに戻ってきて、今、隣でべそをかいている。

「すみません、本当に。俺、本当に中学のときとなんも変わってないっす。喧嘩弱いのにいきがって」
反省と謝罪を繰り返す。
「それは、もういいから」

陽高の鶴見は、一年生だというのに大柄で見るからに腕力がありそうだった。
華奢なハローくんと見た目だけで判断すると、勝ち目はなさそうに見えてしまう。

ボロボロになった彼を想像して
「ひゃっ」と小さな悲鳴を上げた。
「なんすか。ゴキブリすか。俺、ゴキブリも無理っす。何にも勝てないんすよー」
今度は自虐的になる。
「ううん。なんでもない」
それにしても寒い。辛うじてコートは来ているけれど床や空気の冷たさに身震いする。