「でもね、人ってさ、脳が死んでもハートは動いてるよね。
だから、脳で考えろとかいうけど、大事なのはハートじゃないかと思うんだ。
ハートが元気なら、脳の傷だって消えると思う。
そしてね、虐められて愛されないって言っているのは自分じゃなくて、頭の中の傷なんだとあたしは思うよ。
そう気づけたらきっと、ハートがその傷を最初からなかったみたいに治してくれる気がするな」

虐められた、愛されないと言ってるのは自分ではなく傷。
それに気づいて離れたらきっとハートが傷を修復してくれて、虐められた過去がなんでもなかったことのようになる。
言葉にすると簡単に聞こえた。
柚月にだって人の言動で傷ついた過去はある。
あれをされたのは自分ではないと言い切れるとは言い難かった。
ましてや虐めなんてものはとても傷が深いのではないか。

代わりに疑問に思っていたことを尋ねた。
「じゃあ、朝芽先輩はもうハローくんのこと怖くないんですか?」
「ハローくんのこと?」
「ハローくんがそう言ってたから。好きなのに先輩に恐怖を与えたって。
そう言い切れるってことは先輩はもう乗り越えたんですか?
すみません。何があったかわからないけど、訊かれたくないことだったら答えないでください」

そこでずっと口を閉ざしていた京先輩が
「あいつはすっごい最悪な奴だったよね、あーちゃん。俺はね、忘れないよ。あいつがしたこと、あーちゃんの髪を切って挙句の果てに……」

柚月の気持ちを考えず、勢いに任せて喋り出す。