空き教室に移動する。ここもハローくん達のたまり場で、テーブルやソファなどが置かれている。
少し埃っぽいが、昼下がりは日が差し込み昼寝には丁度いい。
ソファに横向きで寝ころぶ。

「そういえばさ、ハロー」
渋谷が呼ぶ。

「ん?」
「お前さ、この前、陽高(ヒコウ)の一年に呼び出されたって話どうなった? なんだっけ、鶴見(ツルミ)だっけか」
陽高とは附学が対立している高校の名前だ。

「そういや、行かなかった」
「まじで。うけるんだけど」と渋谷は腹を抱えて笑う。
「え? なんで行かなかったんすか。鶴見って言ったら、最近、陽高の中でも一年で強いって有名な奴じゃ」とミッチーが驚く。

そこで渋谷が
「あ、柚月ちゃんと映画とか言ってた日か」
とにやついて答えた。

「ええ? あの日だったんすか。デート優先なんてハローさん、どうしちまったんですか。逃げたって舐められますよ」
「そうだそうだ、そんなに逃げてると舐められるぞ」
渋谷はからかうように相槌を打つ。

「舐められる……ねぇ」
「お前、舐められるのいっちばん嫌いじゃん」
「そうっすよ。ハローさんが舐められるなんて、俺も嫌っす」

周りに舐められたくないと強調するミッチーを見て、去年の俺みたいだなとぼんやり思った。

偉そうにしている奴らが嫌いで上級生だろうが、他校で強いと恐れられている奴だろうが手あたり次第に手を出していた。
それが自分の中の正しいことだと思っていた。