「喧嘩、するの?」
この前言ってた喧嘩を売られるというのは、あのときだけではないらしい。
「うん。まあ最近じゃ売られた喧嘩を買う程度? 一応あいつ附学で一番つえーし、名前も顔も知られてるからね。顔見ただけで逃げる奴もいれば、名前を売ろうみたいな奴とか昔の恨みとか……そんな感じでくる奴もいたりするしね」
「……」
「見えない? まあ普段ヘラヘラしてるしね」

柚月が黙り込んでいると
「あれ、柚月? なんで渋くんといるの? うけるー」
湖夏が駆け寄ってきた。

「湖夏ちゃん!」と渋谷が笑顔で応える。

「あ、偶然会って少し話してたんだ」
「あれ、ハローくんは?」
「たぶん帰った」
渋谷が答える。

「えー! 嘘! なぁんだ」
湖夏はがっかりしてから
「そういえばさ、そこの裏通りで喧嘩してる人いたんだけど」
「喧嘩?」
「たぶん。殴りあってるように見えたけど、怖くてよく見えなかった。大丈夫かな? こういうとき警察、通報したほういいの?」

「あー、もしかして」と渋谷が呟くと同時に柚月は立ち上がり
「えっと……ごめん、やっぱり行くね」
店を飛び出して行った。