柚月は焦点の合わない瞳でトレイを見つめる。段々ボヤけてくるのがわかった。

「ハローくんの傷は?」
「え?」
「ハローくんも傷ついてるよ……手の甲」
「あいつも怪我したんだっけ。
でも、それは自業自得でしょ。
まあ、からかいが過ぎたのかもしれないけど、やっぱり切り付けるっていうのはありえないと思う」

須長くんがそう言い切ると
「ごめん、帰る」と柚月は鞄を手にした。
怒りが込み上げてきて、これ以上話すと自分を抑えられなくなりそうだった。

だけどそこでタイミング悪く
「あれ? ゆづちゃん」
と、声をかけられた。

普段ならこんなところにいるはずのないハローくんがそこにいて、どうしてと柚月は動揺した。

その少し後ろにいた渋谷が、「よっ!」と手をあげ「あれ、柚月ちゃんもここにいたんだ。さっき湖夏ちゃんから来れなくなったって聞いたからびっくり。あ、ハロー、席、向こう空いてるからとってくるな」
「おう」

その表情からすると彼の話をしていたなんて知らない様子で、柚月は我に返る。
さっきまでの話はなかったことにする。
普通にしよう。

ハローくんが渋谷の後に着いていこうとしたのに
「三波(ミナミ)だろ」
と須長くんが呼び止めた。

「はっ?」
とハローくんは振り返る。

「俺、小学校一緒だった須長。覚えてない?」
「知らない。人違いじゃない」
「忘れたとか言うなよ。お前がどんな最低な奴か俺は知ってるし、哲也のこと傷つけたのも覚えてるけど」

ハローくんがだんっと壁を強く蹴った。