柚月が顔をあげると、カツアゲしようとしていた男子が身を縮こませていて、中学生は猛ダッシュで人ゴミの中へと飛び込んでいくところだった。
一緒にいた高校生も、茫然とした様子だった。
目を離した隙に何かあったようだ。
「方法、あったね」
ハローくんが言う。
「え?」
「誰か行かなくても助かる方法。急所蹴り上げてったよ、あいつ。すっげ俊足だし」とおかしそうに笑う。
「え、嘘、すごい」
ハローくんにつられて柚月も笑うと、彼らがこちらに視線を向けた。
目が合ったらまずいと思ったのか、ハローくんが急に柚月の肩を抱き、身体を反転させた。
「わ……」
「ごめんね、ちょっとこのまま行くね。思い切り笑っちゃったからキレられるかもしれないし」
おどけたように言うが、ハローくんには彼らに絡まれる心当たりもあって、内心は結月を巻き込みたくなかった。
「う、うん」
少し歩いてから
「ゆづちゃん、後ろ振り向かないでせーので走れる?」
「走る?」
「うん。ゆづちゃんの大好きな全力疾走」
「え、私、好きじゃないけど」
「せーの」
とハローくんの合図で自然に走り出してしまった。
さっきまで肩に置かれていた手は柚月の手をしっかり握っている。
後ろは振り向くなと言うけれど、さっきの2人組がついてきているのは気配でなんとなく感じていて、行き交う人にときどきぶつかりながらも、スクランブル交差点を過ぎてどうにか逃げ切れたようで足を止めた。