「・・・・・・・いつまで傍観者のフリしてるの?
そこにいるのは分かってるのよ、出て来なさい。」
キセキは突然、後ろを振り返ってボウガンを向ける、だがそこにもう人はいない、「人の形をしたナニか」なら居た、その「ナニか」の姿は、一目見ただけでも普通の人間の姿とは異なる形をしている部分がいくつもあった。
まず頭にあるグルグルと曲がった角、その角は被り物でも飾り物でもない、角は頭部から直接生えているのだ、それだけではない、下半身が異常なくらい毛で覆われている。
世の中に毛深い人間ならいくらでもいるのだが、「ナニか」の下半身は毛深い人間なんて比にならない、肌が見えないくらいの毛で覆われていた。
しかもその毛の質感も、人間の毛とは少し違っている様子だ、いわゆる「天然パーマ」とも思えるが、毛の細さや長さが妙におかしい、しかも足は普通の人間の形をしているのに、足には毛が一本も生えていない。
だが上半身は、普通の成人男性とほぼ変わらない形をしている、だが橋の下はかなり寒いにも関わらず、「ナニか」は上半身裸で、衣服は何も身につけていなかった。
靴も履いていない、素足で冷たい鉄骨の上に平然と立っていた、対照的にキセキの肌には鳥肌が立っている、長袖のワンピースを着ているのだが、服の間から侵入する冷たい風に、体が怯えてしまう。
寒さを堪えるキセキを目の前に、「ナニか」は殺気立っていた、だがその目も人間とはかけ離れていた、まるで獣の様な鋭く冷たい碧眼が、キセキを睨みつけている、だがキセキは一切動じていなかった。
山から流れる冷たい風が、キセキと「ナニか」の横を通過する、そして下からは、肉が腐った様な生々しい臭いが橋に向かって舞い上がっている。
恐らくその臭いは、男性のモノだろう、体の腐敗が始まり、動物達は男性の元を離れて行く、しかしカラスやネズミなどは、男性のモノを食べ続けていた。



「・・・・・・・あなただったのね・・・。
男性に幻覚を見せ、事件の裏で人が死ぬ様子を楽しんでいた外道は。



本物のヒツジ男。」