後ろから聞こえた、何かが爆発する音、女性は慌てて後ろを振り返ろうとするが、体はもうすでに斜めに傾いていた、そして女性の目には、谷底の闇だけが鮮明に見えていた。
女性の胸からは、まるで噴水の様に真っ赤な鮮血が吹き出し、口や目からも血が滴り落ちている、視界が徐々に赤く染まり、同時に自分の足が鉄道橋から離れている事に気づく女性。
だがもう体全体に力が入らずに、最後の望みであった爪先も、とうとう宙に浮いてしまった、女性の体重はあまり重くない方だが、落下するスピードが早すぎて、ジェットコースターに乗って急落下している時と同じ様な体感だった。
女性が髪を束ねていたヘアーアクセサリーは、落下のスピードに耐えきれず、女性から離れて森の中に落ちてしまう、胸からまだ吹き出ている血は、まるで雨の様に谷底の川に落ちる。
異変に気付いたのは、動物達よりも川の中を泳いでいる魚達の方が早かった、赤い鮮血が川のあちこちに振り注ぎ、魚達は逃げる様に下流に向かう。
落下のスピードに耐えられなくなったのは、女性のヘヤーアクセサリーだけではなく、女性が着ていた上着も、ボタンが外れて女性から逃げてしまった。
そして女性が落ちた場所は、運悪く大きな岩岩がひしめき合う場所だった、高い場所から落下した衝撃は大きな岩にも響き、岩はそのまま倒れて川に落ちる。
岩の上から川に投げ込まれた女性の体は、バラバラにはなっていないが、腕や足がまるでミミズの様にねじ曲がっていた、落下の衝撃で骨が折れただけではなく、身体中の関節全てが壊れてしまったのだ。
しかしまた不運な事に、川の中に投げ込まれた女性には辛うじて意識があった、もちろん息なんてできない、水面に上がる事すらできない。
ねじ曲がった両足は川底を引きずり、今にも折れそうな首は川の水圧でうようよと動いている、胸から吹き出ている血は川の水と溶け合い、川を流れる冷たい水が女性の胸を行き来している。
女性は流されている間、水中から橋の上をぼんやりと見ていた、体全体の機能が停止しているので、瞼も閉じられないのだ、何が見えているかさえも、女性の脳は認知できない、女性の目に映るのは、緑色のモヤと、それを繋ぐ紅い縄の様なモノ。

だが女性はその時、とある事に気付いた、緑色を繋ぐ紅い縄の上に、何かがいたのだ、だがそれが今女性に分かった時点で、全てが手遅れだった。
あの鉄道橋で立っていた時、後ろから聞こえたあの大きな音は何だったのか、何故自分の胸から血が大量に吹き出しているのか、もう女性自身がその正体を知る事はできない。



そして翌日、女性は川の下流で発見され、警察は「事件」と判断、女性が務めていた会社は、この事態に追悼メッセージをサイト内で公表。
だがその後、会社の社長や重役達が逮捕された、会社は倒産して、社員達は晴れて自由の身となった、だが何故会社の社長と重役の逮捕に踏み込めたのか。
それは、警察が以前からその会社をマークしたから、速やかに逮捕、起訴ができたのだ、とある違法サイトに、その会社で働く社員達が載せられていたのだ。
穴だらけになったYシャツを着せられている男性社員、着替え中の女性社員など、しかもその中には、下流で死体となって発見された女性の、涙を流している写真も載せられていた。
警察は、女性を殺害したのは会社内の社員と断定、現在も調査を進めているが、進展は全く見られなかった、だがこの件で逮捕される人は日に日に増えていた。
その違法サイトを設立した人、写真をサイトに売りつけた新聞社の社員数名、その写真を高値で買った人など、ニュースにはそんな話題ばかりが並んでいる。
結局女性を殺害した犯人の事は浮き彫りにされて、皮肉にも女性の無念は晴らせた形になったのだが、女性を直接的に殺した犯人は逃げ延びているのだ。
そして女性本人がその事実を知るのは、天に昇った後の事、女性にはもうどうする事もできずに、自分の死を悲しむ事もできず、会社の破滅を喜ぶ事もできない。

その感情を女性は、そのまま「彼女」にぶつけた