「・・・・・ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「へーきへーき!!!
この前俺の友達が行った時、本当に幽霊が出たらしいぜー!!」

「やぁだぁー、やめてよぉー。」

「大丈夫だって、あいつの言う事大半嘘だからさ。」

大学生風の若者4人は、夜中に山の中を歩いていた、女性2人はハイヒールを履いているので、だいぶ足が痛そうだ、だが男性2人も革靴を履いているので、痛いのは4人全員なのだろう。
しかも4人はだいぶ薄着、夜の山の中はだいぶ冷えるにも関わらず、女性は生足を出し、男性は穴だらけのダメージジーンズを履いていた。
そして、4人が乗っていた車は山の入り口付近に停めてある、本来そこは車を止める事は許されない場所なのだが、1ヶ月前の事故の影響で、表札が折れてしまったのだ。
車の中には、空になったお酒の缶数個と、お菓子の袋が数個、ドリンクホルダーにはエナジードリンクが4人分あるが、どれも中身はまだ入っている。
4人はスマホのライト機能を使いながら山道を進み、途中で黄色い遮断テープが2つの木に巻き付けられ、道を遮っていた、しかしその若者達は、その遮断テープを乗り越えてしまったのだ。
よく見ると、遮断テープの上部分には掠れた様な跡がある、恐らく今テープを乗り越えた4人よりも先に、誰かがこの遮断テープを乗り越えたのだろう。
だが4人はそんな事気にする心の余裕なんて無かった、そもそものきっかけは、大学の追試で遅くなった4人の、ちょっとしたストレス発散だった。
4人は互いに仲が良く、色々な場所を遊び回っているのだが、度が過ぎてしまい、単位を落とし、テストも赤点となってしまう、この件で講師からたっぷりと補修と説教をを受けたのだ。
補修中何度も、誰かが「逃げ出しちゃおうよ」と提案するのだが、4人の補修を担当した講師は、4人が逃げられない様に見張っていた、昼の1時から始まった補修は、夜の6時頃にようやく終わった。
ストレスで頭がいっぱいになった4人は、とにかく動かし過ぎた頭に栄養と与えようと、バイキングレストランで暴飲暴食をした、その食事中の話題は、補修を担当した講師の悪口のみ。
その態度に周りのお客達はだいぶ怖気付いていた、子供を連れたママ友メンバーは、わざわざ4人から離れる様に席を移動して、レストランの業務員は注意しようかしないかこっそりともめていた。
それでも、沢山飲み食いしても、講師の悪口を散々言っても、4人のストレスは残ったままだった、どうしようかと全員で考えていると、誰かがこう言った、「やっぱ、こうゆう時は『ホラー』っしょ!!」と。
そして4人が到着した場所、それは1ヶ月前まで自殺の名所として知られていた鉄道橋があった場所、オカルト好きや、心霊スポット巡りをする人々は、まだこの場所に訪れているのだ。
その理由は若干曖昧だが、鉄道橋が崩落した事をきっかけに、その場所に留まっていた亡霊達が、以前よりも姿を現わす「かもしれない」、そんな誰かの予想でしかない。
しかしネット上では、この事故現場に行って幽霊を見た人がポツポツと現れ始めたのだ、その証言自体あまり信用性は無いが、その噂をきっかけに、この場所は新たな心霊スポットとしてリニューアルしてしまったのだ。
その情報を知っていた4人の中の1人は、さっそく皆を車に乗せて向かって行った、ネットにはその場所に行く為のコツも載せられていた、その中で一番注意すべき点としてあげられていたのは、昼間には行かない事。
事故が発生してから1ヶ月は経つのだが、まだ崩落の危険があるので、日が昇っている頃は警察が出入り口を見張っている、遮断テープもその対策だ。
だがいくら警察でも、24時間その場所を見張る事は不可能、なので夜中に行って遮断テープを乗り越えれば、簡単に辿り着ける、逆に昼間に言っても警察に止められて終わり。
幸か不幸か、今現在午前12時頃、4人はすんなりと山の中に入ってしまったのだ、行く前は全員ワクワクとした雰囲気だったのだが、いざその場所を目の前にすると足が震えてしまう。
しかし、残ったストレスと好奇心をガソリンにズンズンと進む4人、途中飛んで来た虫にキャーキャーと威嚇をする女性2人に、山では電波が繋がらずに舌打ちをする男性2人。
そんな事で賑わいながら進んでいると、ついにこの心霊スポットの最大の見せ場となる、鉄道橋跡に着いた、警察などが踏み入った跡が、地面に足跡となり残っていた。
草むらにも踏み入った跡もあり、そこにはまだ使えるボールペンが落ちていた、だが一寸先はすでに崖状態、風が急に強くなり、4人の恐怖心をさらに煽立てている。
女性2人はその恐怖に耐えられなくなったのか、「もう帰ろうよ」と2人の男性に提案するのだが、男性2人は一向に帰る気にはならなかった。
男性2人はとにかくスマホで写真を撮り始め、心霊写真を狙っている、その心霊写真をSNSにアップすれば、たちまち人気者になるという幼稚な発想に取り憑かれているのだ。
そして女性2人も軽はずみな雰囲気に乗せられ、スマホで写真や動画を撮り始めた、まるで遊園地に来てはしゃいでいる子供の様にも思えるが、場所と年齢は不釣り合いだった。
4人の声はやまびことなって山の奥まで響き、麓にある村にもその声は届いていた、夜行性の動物は4人の甲高い声に驚き、普段太陽が昇っている間に動いている動物達も眠りから覚めてしまう。