ヒツジ男が手を伸ばしながらキセキに近寄ろうとする、だが予想以上に鉄道橋の崩壊が早かったのか、鉄道橋が揺れながら徐々に下がっていた。
まるで地面の陥没の様にも思えるが、この鉄道橋が落下すれば、助かる可能性なんて無いに等しい、万が一助かったとしても、その後今まで送っていた生活に戻れるかは、誰にだって結論は見える。
そんな事をキセキが考えていると、彼女はある事に気付いた、自分の胸の痛みが徐々に消えていく感覚がする事に、それはヒツジ男の能力が徐々に薄れている証拠だった、そして胸の痛みが治まると同時に、体が少しずつだが動かせるようになっていた。
だが、鉄道橋が崩落するスピードは、キセキの体の治りよりも早かった、どうにか鉄道橋から逃げられないか奮闘するキセキだったが、今は立つ事すら困難な状況。
それは、体が治ったばかりで動けないだけではなく、誰だって、地面が大きく揺れている上で歩けない事と一緒だ、それは彼女を先程まで陥れようとしていた、ヒツジ男も同じだった。
ヒツジ男はその場でバランスを崩してしゃがみ込む、どうにか這ってキセキの元まで辿り着こうとはするのだが、突然舞い上がった土煙に視界を奪われ、ヒツジ男は咳込む。
恐らく落ちそうなのは鉄道橋だけではなく、鉄道橋の周りにある地面やレールなども、劣化が原因で巻き添えを食らっているのだ、レールがメキメキと鈍い音を出しながらヒビを生やし、鉄道橋と隣接している地面からは土煙が立ち上っている、そして鉄道橋の中央に、大きな亀裂が走る。
その衝撃で鉄道橋が真っ二つに割れ、キセキは土煙が目に入ってしまったのか、目を擦っていた、そしてこれを好機と思ったヒツジ男は、バランスを取り戻して走りながら彼女に駆け寄った。
だがその瞬間だった、亀裂が大きな裂け目となり、ヒツジ男はその裂け目に吸い込まれ、断末魔を響かせながら落ちてしまう、幸いキセキはまだ落ちてはいないが、もうすでに鉄道橋は原型を留めていない。
レールに掴まれば助かる可能性もあるのかもしれない、だがそのレール自体の老朽化も激しい、藁よりも頼り無いのかもしれない、そしてとうとう、鉄道橋は周りの地面も巻き添えにして、谷底に落ちてしまう。
底からは、大きな鉄が地面に落ちた音が大音量で山奥に響き、川は完全に堰き止められてしまう、山に住む動物達はその轟音に驚いて一目散に逃げる。
木々からは鳥が大量に飛び出し、川に住む魚達も飛び跳ねていた、その轟音は振動となり、森全体を揺らしていた、そして山の麓にある村には、音ではなく振動として伝わっていた。
村人達は一斉に外に出て辺りを確認すると、山の方で土煙が舞っている事に気付き、警察などに連絡する人や、逃げる準備をする人で、村中がパニックになっている。
そして崩れ落ちた鉄骨の一部が電線にぶつかり、村中の信号が止まってしまう、もちろんテレビも点けられないので、地震が起きたのかも確認できない状態だ。
だが幸い、この村には電波が通っているので、若者の一人がスマホでニュースを確認したが、地震情報は無かった、そしてその事を、若者は村人達に大声で伝えた。
その声を聞いて村人達は安心したのだが、だとしたらこの揺れは何なのか、地震以外の可能性としては、土砂崩れが有力視されるが、最近この地域に雨は降っていない。
村人達の混乱は静かに続いていた、そして川が堰き止められた影響で、村を流れる川の水量が徐々に少なくなる、村人達は、とりあえず村から一時避難をする準備をしている。