突然、ヒツジ男の態度が一変した、先程まで平常心を保ち、平然とした顔をしていたのだが、その顔はまるで怒りに狂う獣の様に、顔中に怒りのシワを張り巡らせ、白く鋭い牙をキセキに向けた。
そしてヒツジ男はその表情のまま、足で鉄骨を何度も踏みしめながら、内に秘めたヒツジ男の思いをキセキにぶつける、キセキは当然ながら呆然としてしまう。
ヒツジ男が鉄骨を踏みしめるたびに、鉄道橋全体に鈍い音が響く、鉄骨の辺りに付着している錆が剥がれ、谷底にヒラヒラと落ちる、錆だけではなく、鉄道橋の上に散乱していた小石も、震えで橋から落ちる。
だが川に小石が落ちる音は、キセキの耳にも入って来なかった、正確には耳をすませば聞こえるのだが、ヒツジ男の罵声の声があまりにも大きく、谷底に耳をすませる余裕なんてなかった。

「俺がどんな苦労をして生き続けているか、あいつらには分からないだろう な!!!食べられる物ならどんな物でも食べたさ!!!
雑草だろうが、虫だろうが、生きている獣だって、仕留めて骨も残さず食べていたさ!!!
・・・・・でも、時々此処に来る人間達が、まだ食べられる物を捨てて行ってくれるから、それが自分にとって、一番のご馳走だった。
最初は捨てて行った人間達に感謝したさ、でも時が立つと当時に、苛立ちが強くなっていた、何故自分がこんなに苦労しているのに、人間達は平然と食べ物や命を捨ててしまうのかってさ!!!

俺は必死になって今まで生き延びていた、自分達の祖先は、元々この山に住まう『神獣』として、人間達から愛されていた、だがその人間達が作った歴史のせいで、俺は生き続けなきゃならないんだ!!!
自分の家族も仲間も、とっくの昔に亡くなってしまったさ!!!人間に狩られるか、飢えで死ぬか!!!
人間達は手のひらを返して、俺達を『化け物』だとか、『死神』だとか好き放題言って、不都合な事情をいつも投げつけられていた、その苦しみが、お前に分かるのか?!!」



「・・・・・・・・・・。
 ・・・・・分かるよ。」

「っ?!!」

「いや、私だけではない、君の様な存在なんて、世界中にいくらでも居る。そして同じ様な悩みを抱えている存在も居る、私はそんな存在を何回も何回も見ていた。
そして私だって、あなたと同じ様な悩みを抱えた事だってある、人間はどの世界でもどの時代でも、同じ様な行動をしてしまう、博学で身勝手な存在だから。」