「これ、中島に渡して」
晴が差し出した封筒を見て舞い上がってた私は、その一言で一気に地に叩きつけられた。
封筒そのものは無地だけど、今時直接会える人に書く手紙なんてラブレターくらい。
他人にそれを渡させるなんて、告白の手紙であると言っているようなものだ。
「なんで私が渡さなきゃいけないの」
絶望から自分を引き上げて、やっと、呆れたような、面倒くさそうな声色でそう言った。
「いいから渡しておいて」
晴はそう言いながら一方的に手紙を私の肩に押し当てたから、私は反射的に手紙を押さえてしまった。
そのまま教室を出て行く晴を見ながら、私は胸の奥が押し潰され、苦しくなり、いつの間にか下ろしていた手に、力が入った。
力が入っていることに気付いて視線を落とすと、晴に押し付けられた封筒は真ん中に向かってしわができていた。
*
家に着いた頃には、黄昏時から夜に移り変わっていた。
気分は変わらず、リビングの横を通る時親に「おかえり」と言われても応えなかった。
二階に上がって部屋に入ると、電気をつけないまま勉強机に向かった。
勉強用のデスクライトを点けて、カバンの中から国語の教科書を取り出した。
真ん中あたりを開いて、しわくちゃにしてしまった手紙を取り出す。
帰ったら辞書の下に置いてシワを伸ばそうと教科書に挟んでいたが、下校中、中身を読んでしまおうか、という好奇心が湧いてきた。
これが本当に告白の手紙なのか、確認したいとも思う。
でも、これが本当にそういう手紙なら、この絶望はもっと重いものになってしまう。
それに、晴はこれを中島菜緒に向けて書いた。
あの冷たい晴が彼女に優しい言葉を使うのを見てしまったら。。。
そうと決まった訳でもないのに、どんどん自分の妄想が進んでいき、一緒に気持ちもどんどん沈んでいく。
見たくない、そんなの。
いつの間にか目尻から流れていた涙も拭わないまま、私は手紙を机の端において、その上に辞典を置いた。
さらに鞄から宿題を出して国語の教科書と一緒に辞典の上に置いた。
スマホとイヤホンも取り出して音楽を聞きながら宿題をする準備ができたところで、ふと、母に夕飯だと呼ばれても気づかないかもしれないと思った。
でも呼ばれても食べる気にはならないだろうと、イヤホンを耳に入れた。
*
次の朝、腫れてしまった目を氷で冷やしながら学校に行く準備をしていた。
机の上に積んだ宿題の山をカバンに入れて、一番下に置いた辞典を持ち上げたとき、スカートのポケットに入れていたスマホが鳴った。
『今日学校休むから、放課後ノートの写真送ってくれる?』
菜緒ちゃん、休むんだ。。
『了解〜』
『お大事に』
文面では極力明るくなるよう努めたけど、二回目に送信ボタンを押した途端、長い溜息が出た。
明日まで手紙を渡すことはできない。
告白が一日先延ばしになったと考えれば、それは特に問題ない。
でも、手紙の存在を知ってしまったからには、晴と普通に話せる気がしない。
「まりー!晴くん来たわよー!」
お母さんのそんな叫びが下から聞こえた。
あんな手紙預けておいていつも通り迎えに来るとか、神経を疑ってしまう。
辞典を手紙の上に戻し、
「はよ」
「う、うん」
「いってらっしゃーい」
「行ってきます」
「どうしたんだよ」
「いや」
「静かだな、お前」
「え」
「今日菜緒ちゃん来ないって」
「なんで」
「知らない」
「ふーん」
晴から手紙のことを聞いてくるんじゃないかとチラチラ見ていたものの、晴はそんなことは気にしていないみたいだった。
それどころか、
「なんだよ」
と、まるでそもそも手紙のことを忘れているかのようだった。
あの手紙のこと気にしてるの私だけか。
そう気付かされて、恥ずかしくて悲しくて、そのまま何も言わずそっぽを向いた。
くっそ不機嫌じゃん。
晴なにも気にしてないのに。
今度は恥ずかしさよりも悲しさが増してきて、晴とは反対方向を向いたまま俯いた。
*
「菜緒ちゃん」
教室の前で彼女を待ち伏せて、入ってしまう前に呼び止めた。
*
放課後
晴が差し出した封筒を見て舞い上がってた私は、その一言で一気に地に叩きつけられた。
封筒そのものは無地だけど、今時直接会える人に書く手紙なんてラブレターくらい。
他人にそれを渡させるなんて、告白の手紙であると言っているようなものだ。
「なんで私が渡さなきゃいけないの」
絶望から自分を引き上げて、やっと、呆れたような、面倒くさそうな声色でそう言った。
「いいから渡しておいて」
晴はそう言いながら一方的に手紙を私の肩に押し当てたから、私は反射的に手紙を押さえてしまった。
そのまま教室を出て行く晴を見ながら、私は胸の奥が押し潰され、苦しくなり、いつの間にか下ろしていた手に、力が入った。
力が入っていることに気付いて視線を落とすと、晴に押し付けられた封筒は真ん中に向かってしわができていた。
*
家に着いた頃には、黄昏時から夜に移り変わっていた。
気分は変わらず、リビングの横を通る時親に「おかえり」と言われても応えなかった。
二階に上がって部屋に入ると、電気をつけないまま勉強机に向かった。
勉強用のデスクライトを点けて、カバンの中から国語の教科書を取り出した。
真ん中あたりを開いて、しわくちゃにしてしまった手紙を取り出す。
帰ったら辞書の下に置いてシワを伸ばそうと教科書に挟んでいたが、下校中、中身を読んでしまおうか、という好奇心が湧いてきた。
これが本当に告白の手紙なのか、確認したいとも思う。
でも、これが本当にそういう手紙なら、この絶望はもっと重いものになってしまう。
それに、晴はこれを中島菜緒に向けて書いた。
あの冷たい晴が彼女に優しい言葉を使うのを見てしまったら。。。
そうと決まった訳でもないのに、どんどん自分の妄想が進んでいき、一緒に気持ちもどんどん沈んでいく。
見たくない、そんなの。
いつの間にか目尻から流れていた涙も拭わないまま、私は手紙を机の端において、その上に辞典を置いた。
さらに鞄から宿題を出して国語の教科書と一緒に辞典の上に置いた。
スマホとイヤホンも取り出して音楽を聞きながら宿題をする準備ができたところで、ふと、母に夕飯だと呼ばれても気づかないかもしれないと思った。
でも呼ばれても食べる気にはならないだろうと、イヤホンを耳に入れた。
*
次の朝、腫れてしまった目を氷で冷やしながら学校に行く準備をしていた。
机の上に積んだ宿題の山をカバンに入れて、一番下に置いた辞典を持ち上げたとき、スカートのポケットに入れていたスマホが鳴った。
『今日学校休むから、放課後ノートの写真送ってくれる?』
菜緒ちゃん、休むんだ。。
『了解〜』
『お大事に』
文面では極力明るくなるよう努めたけど、二回目に送信ボタンを押した途端、長い溜息が出た。
明日まで手紙を渡すことはできない。
告白が一日先延ばしになったと考えれば、それは特に問題ない。
でも、手紙の存在を知ってしまったからには、晴と普通に話せる気がしない。
「まりー!晴くん来たわよー!」
お母さんのそんな叫びが下から聞こえた。
あんな手紙預けておいていつも通り迎えに来るとか、神経を疑ってしまう。
辞典を手紙の上に戻し、
「はよ」
「う、うん」
「いってらっしゃーい」
「行ってきます」
「どうしたんだよ」
「いや」
「静かだな、お前」
「え」
「今日菜緒ちゃん来ないって」
「なんで」
「知らない」
「ふーん」
晴から手紙のことを聞いてくるんじゃないかとチラチラ見ていたものの、晴はそんなことは気にしていないみたいだった。
それどころか、
「なんだよ」
と、まるでそもそも手紙のことを忘れているかのようだった。
あの手紙のこと気にしてるの私だけか。
そう気付かされて、恥ずかしくて悲しくて、そのまま何も言わずそっぽを向いた。
くっそ不機嫌じゃん。
晴なにも気にしてないのに。
今度は恥ずかしさよりも悲しさが増してきて、晴とは反対方向を向いたまま俯いた。
*
「菜緒ちゃん」
教室の前で彼女を待ち伏せて、入ってしまう前に呼び止めた。
*
放課後