〔此処に十七年住んでたんですね〕
蒼は悲しそうな表情(かお)で
十七年住んでいた家を見ていた。
羽宮さえ転校してこなければ、
教頭が早まらなければ……
何より元両親が流されず
話しをちゃん聞いていれば
死なずにすんだはずだ。
〔連れて来てくださって
ありがとうございます〕
蒼があたしの手を引いて
行きだそうとしたその時……
「貴女はさっきの……」
元両親だった。
『どうも』
声に刺があったのは否めない。
隣にいる蒼は家を見ていた時と
同じ表情(かお)をして二人を見ていた。
「上がっていかない?」
元母親があたしに言った。
〔慧子さんがよければ
上がっていかれては?〕
僕は外に居ますからと言った。
『お邪魔させてもらいます』
窓の外を見て蒼が
いることを確認してから
向かいに座る蒼の元両親を見た。
『単刀直入に訊きます。
何で話しも聞かずに
蒼大を追い出したんですか(。・ˇ_ˇ・。)』
ずっと疑問だった。
『蒼大をそういう奴だと
思ってたんですか?』
返事をしない二人に
質問を重ねる。
今更、後悔でもしているのだろうか。
そんなものは無意味だ。
見えていても、話せても、触れても
あの温もりはもうない‼
冷たい蒼の手。
あたしは知らず知らずの内に
泣いていたらしい……
制服の袖で目元を拭い
二人にもう一度、同じ質問をした。
外からは蒼の心配する
気配が感じられて小さく苦笑した。
「あの子が信じられなかった
わけじゃなかったのだけど
女の子を襲ったっていう
電話が来た時、頭の中が
真っ白になってしまったの」
真実を確かめもせず
その日帰って来た蒼を
追い出した結果がこれだ‼
あの日、どんな思いで
学校へ引き返したのだろう……
あたしには言えなかったのだろう。
蒼は一人で
抱え込んでしまうところがあるから……
『真実は違いましたよね?』
今さっき、あたしが
無実を証明したばかりだ。
「蒼大には本当に
申し訳ないことをした」
蒼が生きていれば
それで済んだだろう。
だけど蒼はもうこの世にいない‼
あの日、二人が追い出したりしなければ
まだ生きていたのに……
あたしは椅子から立ち
二人に思いっきりビンタをした。
蒼の心の痛みは
こんなもんじゃなかったはずだ。
『頭の中が真っ白になった?
それは、あの日の蒼大じゃないの!?』
両親に追い出された
蒼こそ頭の中が真っ白に
なったに違いない。
両親に話しさえ聞いて
もらえなかったんだから。
怒鳴りながらあたしは泣いていた。
外にいる幽霊になった蒼は
入ろうと思えば入れるのに
悲しい表情(かお)をするだけで
決して入ろうとはしない。
三ヶ月前まで住んでいた家なのに。
「蒼大、ごめんなさい」
今更、謝ったって遅い。
『帰ります』
その場から動かない二人を
残して玄関へ向かった。
〔ありがとうございます〕
お礼を言われるような
ことはしていない。
『何もしてないよ』
あたしは蒼を信じて
無実を証明しただけ。
夕方の道を二人で
手を繋いで歩いた。
(完)
蒼は悲しそうな表情(かお)で
十七年住んでいた家を見ていた。
羽宮さえ転校してこなければ、
教頭が早まらなければ……
何より元両親が流されず
話しをちゃん聞いていれば
死なずにすんだはずだ。
〔連れて来てくださって
ありがとうございます〕
蒼があたしの手を引いて
行きだそうとしたその時……
「貴女はさっきの……」
元両親だった。
『どうも』
声に刺があったのは否めない。
隣にいる蒼は家を見ていた時と
同じ表情(かお)をして二人を見ていた。
「上がっていかない?」
元母親があたしに言った。
〔慧子さんがよければ
上がっていかれては?〕
僕は外に居ますからと言った。
『お邪魔させてもらいます』
窓の外を見て蒼が
いることを確認してから
向かいに座る蒼の元両親を見た。
『単刀直入に訊きます。
何で話しも聞かずに
蒼大を追い出したんですか(。・ˇ_ˇ・。)』
ずっと疑問だった。
『蒼大をそういう奴だと
思ってたんですか?』
返事をしない二人に
質問を重ねる。
今更、後悔でもしているのだろうか。
そんなものは無意味だ。
見えていても、話せても、触れても
あの温もりはもうない‼
冷たい蒼の手。
あたしは知らず知らずの内に
泣いていたらしい……
制服の袖で目元を拭い
二人にもう一度、同じ質問をした。
外からは蒼の心配する
気配が感じられて小さく苦笑した。
「あの子が信じられなかった
わけじゃなかったのだけど
女の子を襲ったっていう
電話が来た時、頭の中が
真っ白になってしまったの」
真実を確かめもせず
その日帰って来た蒼を
追い出した結果がこれだ‼
あの日、どんな思いで
学校へ引き返したのだろう……
あたしには言えなかったのだろう。
蒼は一人で
抱え込んでしまうところがあるから……
『真実は違いましたよね?』
今さっき、あたしが
無実を証明したばかりだ。
「蒼大には本当に
申し訳ないことをした」
蒼が生きていれば
それで済んだだろう。
だけど蒼はもうこの世にいない‼
あの日、二人が追い出したりしなければ
まだ生きていたのに……
あたしは椅子から立ち
二人に思いっきりビンタをした。
蒼の心の痛みは
こんなもんじゃなかったはずだ。
『頭の中が真っ白になった?
それは、あの日の蒼大じゃないの!?』
両親に追い出された
蒼こそ頭の中が真っ白に
なったに違いない。
両親に話しさえ聞いて
もらえなかったんだから。
怒鳴りながらあたしは泣いていた。
外にいる幽霊になった蒼は
入ろうと思えば入れるのに
悲しい表情(かお)をするだけで
決して入ろうとはしない。
三ヶ月前まで住んでいた家なのに。
「蒼大、ごめんなさい」
今更、謝ったって遅い。
『帰ります』
その場から動かない二人を
残して玄関へ向かった。
〔ありがとうございます〕
お礼を言われるような
ことはしていない。
『何もしてないよ』
あたしは蒼を信じて
無実を証明しただけ。
夕方の道を二人で
手を繋いで歩いた。
(完)