「わぁ……」

ゆかりさんは大きく口を開けたまま、茫然と立ち尽くしていた。
そうなるのも当然だ。
招待を受けたお屋敷は、まるで旅館みたいに立派な建物だったんだから。




「あ、いらっしゃい。
ひさしぶりだね。」

玄関先でまごまごしている俺たちの前に現れたのは、目の覚めるような鮮やかなブルーのタキシード風の服を着込んだ美戎で……

まるで、この屋敷の主人みたいな雰囲気だ。
その後ろから、車椅子に乗った若い女の子がおずおずと姿を現した。




「いらっしゃいませ。
今日は、美戎さんの誕生日を祝う会に、おいで下さり、どうもありがとうございます。」

「こちらこそ、お招きどうもありがとうございます。」

女の子も赤いふりふりしたワンピースっぽいものを身に着けていて、その布地のなめらかな様子は、きっと高価なものなんだろうって感じさせられた。

それにひきかえ、ゆかりさんの着ているものはあまりにもぼろっちぃ。
裾のあたりはすり切れてるし、お尻のあたりには継ぎが当たってる。
ゆかりさんも、そのことが気になったのか、俯いたまま、黙り込んでしまった。



「さ、どうぞ、こちらへ……」



僕らが通されたのは、広い洋風の食堂だった。
立派なテーブルの上には、いかにも上等な食器が並んでいて、綺麗な花が活けられている。
畑の傍で花を摘んで来ようかと思ってたけど、やめといて正解だった。

そういえば、この世界は、和風なものと洋風なものがどちらもある。
着物風の衣類を着てる人もいれば、洋服っぽいものを着てる人もいる。
建物は和風のものが多いけど、食堂なんかにあるのはたいてい椅子とテーブルだ。
でも、宿屋はベッドじゃなくて布団なんだ。



「うがー」
「うががーー」

「静かにしないとだめだぞ。」



小ヨウカイ達は、見慣れない光景にやや興奮しているようだ。



「四人もいらっしゃるなんて珍しいですね。
あなた達のお子さんですか?」

「えっ!?い、いや…これは、慎太郎のヨウカイだ。
あたいは面倒をみてるだけで……」



な、なんだ!?
俺とゆかりさんは夫婦にみられたってことなのか?
そう思った途端、なんだか顔が熱くほてった。

しっかりするんだ、慎太郎。
相手はかっぱだ!
そんなことで照れるんじゃない!
俺は、自分自身にそう言い聞かせた。