「良いものが出来ましたね。
きっと、美戎は喜んでくれますよ。」

「そうかな?そうだと良いけど……」



その日のゆかりさんは、いつもより機嫌が良かった。
夕食後に、ゆかりさんが見せてくれたのは紐のついた小さな袋だった。
美戎が持ってる四角い板を入れるための袋らしい。
四角い板ってなんだ?って一瞬考えたけど、その大きさや形から考えると、きっとスマホのことだと気が付いた。



確かにうまく出来てはいるんだけど、前と後ろの柄は微妙にズレてる。
なんでもその生地は高いものらしく、切れ端を買って来たので合ってないらしいんだ。
確かにたいしたものは買えないと思ってたけど、まさかこんな少ししか買えないなんて…
それとも、この世界では布はずいぶん高いものなんだろうか?



とにかく、ゆかりさんは満足しているようで、俺が帰って来てからずっと上機嫌だった。
なんていうか…完全に「恋する乙女」そのものだよな。
きっと、町に行って、あれこれいろんな店を見て歩いて……そして、この布地を選んだんだろう。



美戎の喜ぶ顔を思い浮かべながら……



あぁ、なんだろう、このもやもやした気持ちは……
ゆかりさんが誰を好きになろうと、そんなことは俺には何の関係もないはずだ。
良く見ろよ、ゆかりさんはかっぱなんだ。
それに、俺と美戎だったら、美戎にひかれる方が多いのも当然のことじゃないか。
俺がだめなんじゃない。
美戎が格好良すぎるだけなんだ。



「気にするな、気にするな……」

「慎太郎……どうかしたのか?」

「え!?……い、いえ……
なんでもないんです。」



自分でも気づかないうちに、俺は心の中の想いを口にしていた。
俺の今の状況は、自分で思うよりよくないのかもしれない。



だって、かっぱが気になるんだから……
かっぱを意識してるんだから……