(しっかりしろ!
相手はかっぱだぞ。
何をぼーっとしてるんだ!?)



もう一人の俺が心の中で囁いた。



確かにそうだ。
いくら抱き付かれたって言ったって…いくら女の子だっていったって、相手はかっぱだ。
深刻に考えることはない。
冷静に…冷静に……



「あ…ご、ごめん。」

「いえ……」



俺があれこれ考えている間に、ゆかりさんの方が落ち着きを取り戻し、俺から身体を離した。
この雰囲気…まさに、恋人同士になる直前のエピソードみたいじゃないか。



「本当にごめんな。
あたい…なんだか必死になってしまって……」

ゆかりさんが珍しく焦ってる。
つまりそれだけ本気だったってことだな。



「俺は全然気にしてませんよ。
だから、ゆかりさんも気にしないで下さい。」

俺にしてはまともなことを言った。
しかも、それから微笑んだんだから。



「ありがとう、慎太郎。
あんた…良い人だな。」

「そ、そんなこと……」

「ところで、あんたと美戎は幼馴染だって言ってたよな?」

「えっ……あ、あぁ…そ、そうなんです。」

そういえば、美戎がそんなことを言ってたな。
咄嗟のことだったから、あやうく違うって言いそうになってしまった。



「でも…年はけっこう違うよな?」

「え…そ、そうですね。
まぁ、俺の方がちょっとばかし……」

「なぁなぁ、美戎は、その…どんな子供だったんだ?
小さい頃から、やっぱり可愛かったのか?」



嬉しそうな顔でそんな質問をしてくるゆかりさんに、俺はテンションがガタ落ちになるのを感じた。



(やっぱり、興味の対象は美戎なんだな。)



そのあたりも女の子らしいといえばらしいよな。
俺と美戎じゃ、誰だって美戎の方に興味を持つさ。
人間だってヨウカイだって、それには違いはないってことだな。
そんなこと、端からわかってたことなのに、なんだか俺は気分が良くなかった。