「なぁ、慎太郎…頼むよ!」

「え…?」

ゆかりさんは不意に顔を上げ、僕を真剣な目でみつめた。
あまりにもまっすぐな目だったから、僕は戸惑ってしまってどうしたら良いのかわからなかった。



「あんたの住む町にはかっぱもいて、人間と仲良く暮らしてるんだろう?
あたいも、そこに行きたいんだ。
そこで、いじめられることを心配せずに、のんびりと暮らしたいんだ!」

「ゆかりさん……」



あぁ、俺はなんてことを言ってしまったんだろう……
そんな場所は本当はないのに、ゆかりさんに妙な期待を持たせてしまった……

期待は大きければ大きい程、裏切られた時のショックが大きい。
だから、今のうちに言うべきなんだ。
さっきの話は嘘なんだって。
そんな場所はどこにもないんだって……

でも……ゆかりさんの目を見ていたら……
俺の言った嘘の話に、夢を託しているあの目を見たら、そんなことはとても言えなくて……



「わ、わかりました。
俺が、町に戻る時には、ゆかりさんを一緒に連れて行きますよ。
……約束します。」



俺は、言ってしまった。
残酷な嘘を……



「ほ、本当か!?
あ、ありがとう、慎太郎!!」

「わ、わわ……」

ゆかりさんに抱き付かれて、俺は複雑な想いでただ立ち尽くすだけだった。