「なぁ、どこなんだよ!」

「えっと…その、俺…口下手だからあんまりうまく説明出来ないんですけど…
と、とりあえず、ここからはものすごく遠いんです。
天狗の籠屋でも何日もかかるような……」

「天狗でも何日も……
そりゃあ、ずいぶん遠い所だな。」

「そ、そうなんです。
ここまで来るのに、俺も何か月かかったことか……」

どうにか誤魔化せたことで、俺は噴出した汗をそっと拭った。
だけど、そうするにはまだ少し早かったようだ。



「慎太郎……いつか、あたいをあんたの町に連れていってくれないか?」

「えっ……俺の町に……?」

ゆかりさんは俺の目をじっとみつめて大きく頷いた。



なんだかとても不思議な気分だ。
ゆかりさんはかっぱだっていうのに、まるで人間の女の子とみつめあってるような……
それってやっぱり、ゆかりさんが人間みたいに服を着て、人間のように言葉を話すからなんだろうか?




「実は、あたい……」

いつもとは少し違う、しんみりした声で、ゆかりさんは話し始めた。
かっぱゆえの今までの迫害の日々を……






「……そうだったんですか。」



部屋の空気がなんとなく重い。
そりゃあ、そうだ。
今までのゆかりさんがずっと辛い目にあってたってことを知ったんだから。

以前、ゆかりさんが、有害種ややさぐれのせいでヨウカイを差別する人間がけっこういるって教えてくれたけど、今まであんまりそんなことを実感することはなかった。
でも、きっと地域性みたいなものがあって、このあたりはそうでもないってことなんだろう。
それに、確かに、かっぱは今まで一度も見たことがない。
なんでも、かっぱは人間の尻子玉を抜くと言われていて、それを引き抜かれた人間は腑抜けになるらしい。
つまり、死にはしないけど、廃人みたいになるってことだ。
そのせいで、かっぱを有害種扱いして嫌う人も多く、しかも、かっぱは力があるとはいえ、特別すごい力でもなく、泳ぎはうまいとはいえ、そのことがあまり人間の役に立たないということも関係しているらしい。
だから、最近ではほとんどのかっぱは山の中にひっそりと隠れ住んでるという。



「かっぱは、もともと数も少ないし、ほかのヨウカイともあまり仲良くないんだ。」

「どうしてですか?」

「そんなことは知らないよ。
……とにかく、この世界でのかっぱは嫌われ者なんだ……」

そう呟いたゆかりさんの横顔は、とても寂しそうに見えた。