「な、なんだって!?
ほ、本当なのか?」



ぎゅうぎゅう詰めの小屋の中に、俺の大きな声が響いた。




「うん、本当だよ。
住み込みだからしばらく会えないけど、とはいっても同じ町の中にいるんだから、用があったらいつでも来てね。」

そう言ってにっこり微笑む美戎の話が、俺は今でも信じられない想いだった。



俺と別れた帰り道、美戎は見知らぬ中年女性に声をかけられたのだという。
なんでも、その人の娘が骨折して外に出られず、精神的に沈んでいるので、話し相手をしてほしいとのこと。
美戎はその足で、女性の家を訪れた。
それは、俺の記憶にもあるこの町でも一際目を引く大きな屋敷で、娘は一目で美戎のことを気に入り、明日から住み込みで働くことになったっていうんだ。

そりゃあ、確かに美戎は芸能人にも引けを取らないほどのイケメンだけど……
でも、ここは異世界だ。
ヨウカイと人間が共存してるおかしな世界なんだ。
だから、ここでは美戎みたいなタイプが必ずしもモテるとは限らない……
と、言いたいところだけど、本当に採用されたんだとしたら、やっぱりここも俺達の世界と同じってことかもしれないな。

だいたい、娘の話し相手だったら、別にここから通えば良いじゃないか。
なんで、住み込まなくっちゃいけないんだ?




「それで、美戎……
賃金はいくらなんだ?」

「さぁ…それは聞いてない。」

「なんだってぇ……」

「でも、食事とかの心配はしなくて良いって…」



金持ちほど、金には細かいもんだ。
もしかしたら、食べさせるだけで賃金は払わないつもりなのかもしれない。



「美戎…それは……」

言いかけた言葉を俺はすぐに呑み込んだ。



そうだよ…大食いの美戎の食事にはとてもお金がかかるんだ。
たとえ、賃金をもらえないにしても、食事を賄ってもらえるのならそれで良いじゃないか。
それに、ただ綺麗なだけで他に何の才能もないってことがわかれば、すぐに辞めさせられるかもしれないな。
そうでなくても、あの食いっぷりを見たら、すぐに追い出されそうだ。



「まぁ、とにかく良かったじゃないか。
精一杯、頑張るんだぞ。」

俺は心の中の想いとは違う言葉を口にした。



「うん、僕、頑張るよ!」