「わぁ…いつまでも身体がぽかぽかしてるね。
いつものお風呂とはやっぱり違うなぁ……」



温泉からあがってからも、美戎はずっと上機嫌だった。



「ねぇ、慎太郎さんはどういう所で働くつもりなの?」

「そうだなぁ…出来るだけ賃金が高い所が良いけど…
まぁ、地道に働くしかないだろうな。
俺、それなりに体力はあるから、出来るだけ長い時間働くつもりだ。」

「じゃあ、僕も……」

「良いんだ、美戎!
おまえはそんなこと気にしなくて良い。
なんたっておまえは今まで働いたことがないんだから。
賃金のことなんか考えずに、仕事に慣れることだけ考えてたら良いんだぞ。
な、美戎…なんでも最初からうまくやれる奴なんていないんだし、ゆっくりちょっとずつ進んでいけば良いんだからな。
そうだ、美戎…お前、先に帰ってろよ。
温泉に浸かり過ぎて疲れたんじゃないのか?
仕事は俺が探してくるから心配するな。」

「ううん、僕も一緒に探すよ。」

「いいから、俺に任せとけって。
……まぁ、もしも、帰る途中で良さそうな仕事がみつかれば、そこで決めても構わないけどな。」

「……そう、わかったよ。
じゃあ、先に戻ってるね。」



身体は鍛えていても、長いことずっと家に軟禁されてたんじゃ、きっとこうやってうろうろするのは体力的につらいはずだ。
なのに、あいつは俺に気を遣って我慢してるんだな。
意外と健気な奴じゃないか。



俺は、美戎を見送ると、本格的に仕事を探して回った。
商店街の店の隅には紙が貼ってある所もけっこうたくさんあるものの、何が書いてるのか、残念ながら俺にはさっぱり読めない。



この町は大きな町のせいか、ヨウカイ達の姿もけっこう見かける。
主に裏方の仕事をしているようだ。
酒瓶がいっぱい乗った荷車を涼しい顔で曳いているのは、見上げるような大男。
しかも、そいつの顔は牛みたいな顔なんだ。
少しずつ慣れてきたとはいえ、やっぱり、一瞬ぎょっとしてしまう。