「とにかく美戎…これからはなにか困ったことがあったら俺が力になるから。
なんでも相談するんだぞ。」

「ありがとう、慎太郎さん!」



微笑む美戎は本当に嬉しそうだった。
けっこう可愛い奴じゃないか。
些細なことで、こいつにはちょっといやな想いを抱いていたが、そんなこと気にすることはなかったんだ。
なんたって、こいつは気の毒な奴なんだから。



「じゃあ、早速相談なんだけど…僕、何をして働けば良いかなぁ?」

「う~ん、そうだなぁ……」



この華奢な身体から察するに、力はなさそうだし、頭の方は明らかにあほっぽいし……



「そういえば、美戎…
大学では何を専攻してたんだ?」

「……僕、大学なんて行ってないよ。」

「え、あ、あぁ、そうか…高卒だったんだな。」

「ううん、僕、高校も行ってないよ。」

「そっか、そっか。
わかっ……」



美戎の言葉を聞いているうちに、ふととんでもない考えが頭を過った。




「なぁ、美戎……
おまえが住んでるのは早百合の家…なんだよな?
一体、いつからそこに住んでるんだ?」

「え…ずっと前からだよ。」

「ずっとって…?」

「う~ん…十年か二十年か…とにかくずっと前からだよ。」

「そんな馬鹿な……じゃ、子供の時からいるのか?」

「ううん、子供じゃないよ。」



美戎はどう見ても二十代前半だ。
二十年も経ってたら、かなり小さな子供の時からってことになる。
本人も子供じゃないって言ってるところを考えると、学生の頃か……
だから、学校にもろくに行ってないんだな。




(……ま、まさか!!)



「な、なぁ…美戎…
おまえの両親だけど……」

「……両親……」

俺が両親のことを訪ねると、美戎は途端に俯いて黙り込んでしまった。




「美戎……」

「慎太郎さん…僕……」

ゆっくりと俺の方に向けられた美戎の顔は、とても哀しげで……



「あ……良いんだ。
親のことなんてどうでも良い。」



きっと、俺の推測は当たってると直感した。



そうだ……美戎は、きっと売られたんだ。
美戎の両親はギャンブルが好きで、多額の借金があって…それで、つい怖い人達からお金を借りて……
その取り立てに来た早百合が、まだ学生だった美戎を見初め、借金のかたに連れて帰って……



(なんてことだ!)



もしかしたら、美戎は自分の過酷過ぎる人生に心を閉ざしてしまっているのかもしれない。
奴も本当のことはわかってて、だけど、あえてその事実から目を逸らして……




「び、美戎……!」

「わぁ!」



俺は、あまりにもあいつが不憫で…思わず美戎の身体を抱きしめていた。