「そういえば、ゆかりさんはどのあたりに住んでたの?
家族は?」

僕はまたなにかいけないことを聞いてしまったみたいで、ゆかりさんは返事もせずに、くるりと僕に背を向けた。



「あ…ごめんね。
今の質問は忘れて……」

「……あたい…故郷や家族のことはもう全部忘れたから。」

「そう……
余計なこと聞いて、本当にごめんね。」



きっと、ゆかりさんには何か言いたくないことがあるんだろうね。
家族とうまくいってない人って意外と多いもんね。
僕は、良く見ていたテレビの悩み相談のことを思い出していた。



僕の家もうまくいってるんだかいってないんだかよくわからないけど…
とりあえず、喧嘩っていうのはほとんどなかった。
さゆりさんが帰って来た時は、どれだけ働いてもお金がない!みたいなことを言って、おばあちゃんと飲んで暴れてたけど、あれは喧嘩とは少し違うし……



きっと、僕は幸せなんだろうね。
心の中には特に大きな悩みはないし、誰かのことを酷く恨んだりすることも何もないから。



(あ……でも、スマホの電池のことは悩みだなぁ…
この世界のいろいろなものをもっとたくさん撮りたかったのに……)



僕は今まで携帯も一度も持ったことなくて、テレビで見ただけだったから、スマホは電池がもたないって話は聞いてたけど、どのくらいもたないのかがよくわかってなかったんだ。
こんなことなら、おじいちゃんに充電器も買ってもらうんだった。



(……それにしても、慎太郎さんはなんであんなにメールを打つのが遅いんだろう…?)



そんなことを考えているうちに、僕のまぶたはだんだん重くなって……いつの間にかそのままぐっすり眠ってた。