「とってもおいしいよ。
ゆかりさんは、料理が上手だね。」

「ば、ばか!こんなの、切って煮込んだだけじゃないか。
料理なんて呼べるようなもんじゃない。」

「そんなことないよ。
この味付け、すごくうまいと思うよ。
それに、切り方も綺麗だ。」

「……もう良いって。」



僕は思ったままを言っただけなのに、ゆかりさんはぷいと背中を向けてしまった。
なにか悪いことでも言ってしまったのかなぁ…?



「でも、本当に良かった。
ゆかりさんが、デラックスのことを教えてくれなかったら、僕はなにも知らず宝の持ち腐れになるとこだった。」

「雑貨屋で見たことなかったのか?
あんた、都会から来たんだろ?
大きな町の雑貨屋にはたいてい売ってるはずだけど……」

僕が話しかけると、ゆかりさんがゆっくりと振り向いた。
それほど怒ってるってわけでもなさそうだ。



「あ…あぁ、僕、まさか自分が旅に出るなんて思ってなかったから、見てもきっと頭の中を素通りしてたんだね。」

「そういうもんかねぇ…あたいなんて、買えるはずはなくても、気になって見てしまったけどな。
それにしても、こんな高価なデラックスや籠パスを持ってるなんて、あんた、お金持ちなんだな。」

「そうじゃないよ。
僕の家はどちらかっていうと貧乏で……
あ…慎太郎さんの家がお金持ちなんだ。
だから、僕が慎太郎さんを探しにいくことになった時、こんなにいろいろ準備してくれたんだ。」

「へぇ、そうなのか。
あんたの方がずっとお金持ちっぽく見えるけどな。」

ゆかりさんは、そう言いながら、納得がいかないように首をひねった。
そういえば、僕はおじいちゃんに服を買ってもらう前には、あの白い着物一枚しか持ってなかったんだよねぇ…
ずーっとそればっかり着てたから、もうすっかりすりきれてたよ。
なんでおばあちゃんもさゆりさんも僕に服を買ってくれなかったんだろう…?
それって、やっぱり、貧乏だからだよねぇ…

慎太郎さんがこっちの世界に来るようなことにならなけりゃ、僕はきっと一生あの白い着物を着て…もっと擦り切れてぼろぼろになってもきっと新しい服は買ってもらえなくて…あの薄暗い部屋の中でテレビを見るだけの毎日を過ごしてたんだろうな。
いま、こんなに格好良い服を着て、あちこち旅をできるのは慎太郎さんのおかげだね。




(慎太郎さん…ありがとう…)




僕は心の中でそっと呟いた。