(……遅いなぁ…)



天狗の籠屋は待てど暮らせどなかなか来なかった。
あたりはもうどっぷりと日が沈み…灯りはゆかりさんの持った袋に入ってたから、暗くてほとんど何も見えない。



俺の住んでた世界ではこんなに暗い夜はなかった。
深夜でさえも街灯や各民家から漏れる光があったし、一日中開いてる店だってたくさんあるんだから。
だけど、こっちにはそんなものはない。
あるのは星や月の光だけだ。
この世界の月は、俺たちの世界の月よりなんだか大きいような気がする。
しかも、形が変化するのがずいぶんと遅い。
多分、惑星の配置の違いから、そうなるんだろうな。
今は新月なのか、月はほとんど見えないから、いくら星が綺麗だっていってもあたりは相当暗い。
ごくたまにすれ違う人がいるくらいで、街道もひっそりとしてるし……不気味だ。



「うがーーー」



「うわっ!びっくりした!」



背中の一人が大きな声を上げた。
それをきっかけに、ほかの二人も同じように騒ぎ出した。
腹が減ってるんだ。



「辛抱してくれ。
食料はゆかりさんが持って行ってしまったんだ。
俺は何も持ってないし、町まではまだ遠い。
な、今夜はおとなしく寝てくれ。」



俺がそう言っても、三人はおとなしくなるどころか、背中の籠の中で泣きながら暴れ始めた。



「こらこら!暴れるんじゃない。」



(そうだ…)



「ね~んね~ん、ころ~りよ
おこ~ろり~よ~♪」



俺は歩きながら古い子守唄を歌った。
そんなものがこいつらに効果があるのかどうかはわからないが、今の俺にはそのくらいしか出来ることがなかったから…



それにしても「ころり」とか「おころり」って何なんだろう?
子守唄にしては、なんだか切なすぎるメロディと歌詞だよなぁ……

そんなことを考えながら歌い続けていると、いつの間にか俺の頬を熱い涙が濡らしてた。



(なんで、こんなことになっちゃったんだろうなぁ…)



暗くて寂しくて…腹が減って、疲れてて……
それでも、俺は歌いながら町を目指して歩くしかなくて……



「うぅっ…じいちゃーーーん!
俺、帰りたいよーーーー!」