……って、別に妬いてるわけじゃないぞ。
好きなら好きで構わないんだ。
そりゃあ、美戎は俺なんかとは違ってイケメンだからな。



(どうせ、どうせ、俺なんて……)



「じゃあ、気をつけてね!」



(……ん?)



俺が束の間いじけているうちに、ゆかりさんとでか目の姿が消えていた。
そこには、ただ、茶色い砂煙だけがあがってて……



「お、おいっ!ゆかりさんはどうしたんだ!?」

「あぁ、籠が来たからそれに乗って行ってもらった。」

「籠だって?
お、おまえ、知ってるのか?
籠っていうのはすごく高いんだぞ!」

「大丈夫だよ。
僕、おじいさんから籠パスもらってるから、それで乗って行ってもらったんだ。」

「籠パス…?
おじいさんって、じいちゃんのことか?」

「違うよ。
籠パスをくれたのは、最初に着いたお屋敷のおじいさん。」



なんだと!?
俺はそんなものもらってないぞ。
なんで、美戎にだけそんなものをくれるんだ?



「って、いつ籠が来て、いつ去ったんだ?
俺はそんなもの見てないぞ。」

「ヨウカイの籠だよ。
新幹線よりも速いんだ。」

「ふっ…新幹線より速いって…新幹線がどのくらい速いか知ってるのか?
270/khだぞ。
それがどんな速さかわかってるのか?」

「知ってるよ。おじいちゃんの家に行く時に乗ったもん。
でも、それよりも確かに速かったよ。」



はは~ん…こいつはあほなんだな。
まぁ、うすうすそうじゃないかとは思ってたけど……
そうだよな。
人間、なにかひとつくらいはだめな部分があるもんだ。



「でも、先に行った所で金がないから宿には泊まれないだろう?」

「それはそうだけど…
だけど、街道沿いで横になるよりは、町中の方がまだマシでしょう?」

「そりゃあ、そうだけど……」

「ゆかりさんは女の子だから、野宿なんて可哀想だもんね。
それでね…町に着いたら今度は僕を迎えに来てくれるから……」

そんな話をしていると、遠くから砂嵐が向かってくるのが見えた。



「美戎、ふせるんだ!
竜巻だ!!」



俺はその場に身を伏せた。
あほな美戎は、ぼーっと突っ立ったままだ。
全く世話が焼ける。



「美戎……う……」

もう一度声をかけようと、俺が顔を上げると、目の前に大きな高下駄があるのが見えた。