「し、知らんって…そ、そんな……
そ、それじゃあ、俺は……!」

「なんじゃ、なんじゃ…ええ若いもんが、情け無い声を出しおって……」

「と、当然でしょう!
お、俺はわけのわからない世界に飛ばされて、帰る方法もわからないんですよ!」

「方法ならさっき言うたじゃないか。」

「ええ、ええ、それなら聞きましたとも!
でも、あなたは肝心のその壷がどこにあるか知らないんでしょう!」

呑気な老人の顔を見ていると、俺はだんだんと腹が立って来て、自分でも気付かないうちにいらいらした声を出していた。
だって、俺はこんな窮地に立っているというのに、この老人と来たら人の気も知らないで……



「いかにも。
わしはその場所は知らん。
……じゃが、わしの兄弟子なら知っておる。」

「え……?」



……そ、そうなの?
老人のその一言で、俺の眉間から深い皺が消えた。

本当に人の悪い……
そういうことなら、最初からそう言ってくれれば良いものを……



「そ、そうだったんですか?
あ……でも、まさか、その兄弟子さんの居場所がわからないなんてことは……」

「いや、わかっておる。」



ほっとした。
今度こそ、俺はほっとした。
ってことは、その兄弟子とやらに壷のありかを訊きに行けば良いだけなんだ。
そしたら、元の世界に戻れる。



「その兄弟子さんのお宅を教えていただけますか?」

「もちろんじゃ。
ただし、多少遠いぞ。」

「そんなことなら、問題ありません。
教えて下さい。」

「よし、わかった。
では、すぐに準備をするから待っておれ。」

老人はそう言い残し、部屋を出て行った。



準備って……一体……?
……あ、地図でも描いてくれるってことかな?



そんなことを考えながら、しばらく待っていると、老人は特に何も持たずに戻って来た。
地図を描いてくれてたんじゃなかったんだろうか?