「大きな声出してどうしたの?
……あ~あ…もったいないなぁ…
食べ物を粗末にしちゃいけないよ。」

美戎は、焼き芋を拾い上げ、ふーふーしてからそれを躊躇なく口の中に放り込んだ。



「おいっ!やめろ!
それは、焼き芋に見えても焼き芋じゃない!
焼き芋に変えられた人間なんだぞ!」



……と、言いたい気持ちはあったが、真実を知ったら美戎はどれほどショックを受けるだろう…
美戎だけじゃない。
俺も一口食べてしまった以上、それを言ってしまうと自分が傷付く。




「言わぬが花」

そんなことわざを頭に思い浮かべ、俺は焼き芋から目をそらした。



「じゃあ、そろそろ行こうか。
あ、とりあえず、俺達が違う世界から来たことはゆかりさんには内緒だぞ。
それを匂わせるようなことも言うなよ。」

「わかった。」

なんだか、この男…顔に似合わずえらく素直だ。
そのせいか、俺もこいつにはちょっと偉そうに振る舞える。
見てくれでは完全に負けてるけれど、腕っ節はいくらなんでもこんなひょろ長いのよりは俺の方が強いだろうし、年齢も明らかに俺の方が上だから、そんなにへいこらする必要はないはずだ。

そう思うと、なんだか妙に気分が良かった。







「ただいま、ゆかりさん。
こいつ…俺の友達の美……」

「うわぁ…本物のかっぱだぁ…!」

俺が話してるのもすっかり無視して、美戎はゆかりさんに近付き、頭の上にお皿を触る。



「な、な、なんなんだよ!」

「慎太郎さん、写真撮ってよ。」

そういうと、美戎は俺にスマホを手渡した。
なんだかすっごく格好良いスマホだ。
きっと、最新の機種なんだろうな。
チェッ…俺は古いガラケーだっていうのに…
っていうより、こんなの見せて大丈夫なのか?
ゆかりさんに俺たちのことがバレないか?
って、その前にカメラはどれなんだよ。
スマホなんて触ったこともないからわからないぞ。



「えーっと…どうするんだ?」

「慎太郎さん、スマホ持ってないの?」

美戎は細くて長い人差し指を画面の上に優雅にすべらせ……



「……はい、これを押してね。」

畜生、俺を馬鹿扱いしやがって…
美戎がゆかりさんに寄り添い腰に腕をまわすと、ゆかりさんの緑色の顔がなんだか少し変化したような気がした。