「まぁ、とにかく旅行にでも来たと思って、ゆっくりして行くと良い。」

「ば、馬鹿な!
そんなこと出来るわけないじゃないですか!
俺が行方不明になったら、家族が心配する。
一刻も早く戻らないと……あ……」

話している途中で俺は気が付いた。
そうだ…もしかしたら、ここから元の世界に戻るのは、実は容易いことなのかもしれない。
だからこそ、この老人はこんなに落ちつき払ってるんじゃないだろうか?
そうでなきゃ、違う世界から来た俺を見てこんなに普通の顔をしてられるはずがない。



「どうすれば良いんです?
元の世界に戻る方法は?」

「なに、簡単なことじゃ。
元の世界と繋がった壷に吸いこまれたら良いんじゃ。」



やっぱり思った通りだった。
老人はここから戻る方法を知っていた。
だから、こんなに呑気な顔をしてたんだな。
でも、そのおかげで俺もようやく落ちついた。
そういうことなら、この老人の言う通り、数日この世界の観光名所を見て帰るのも悪くない。
こんな機会は滅多にないんだし…



(あ……!)



そうか、じいちゃんがあの壷を頑なに隠していたのは、こういうことだったんだ。
じいちゃんは、あの壷が異世界に通じている事を知っていた、だから……



「……どうかしたのかね?」

「いえ……それで、俺のいた世界と繋がった壷はどこにあるんですか?」

「さぁ…?」



……え……?



老人は小首を傾げ、きょとんとした顔を俺の方に向けている。



ご老人よ……
今、「さぁ?」といいなすったのかい?
それって…まさか、知らないっていう意味の「さぁ」ではないでしょうな……



「あの……ですね……俺の世界と繋がってる壷があるんですよね?」

「その通りじゃよ。」

「それで……その壷はどこにあるんですか?」

「……さぁ?」



さっきとまるで同じ顔だった。
極めて無垢な印象の……悪く言えばどこか間の抜けた……



その「さぁ?」は……まさかとは思いますが……



俺は大きく深呼吸をして、その質問を口にした。
俺の顔はなんだか異常な程ににやけてしまう……明らかに誤作動だ。
動揺しすぎておかしくなってる。



「まさか、その壷のありかを知らないって言うんじゃないですよね?」

「いかにも、わしは壷がどこにあるかは全く知らん!」

「え、えええーーーーーーーっ!?」



俺は自分でも驚く程の大声で叫んでいた。