(あれ~…おかしいなぁ…)



順調に旅を続けていたある日のこと…
僕は、二股の道の前で戸惑っていた。
だって、地図には分かれ道なんてないんだから。



「でか目…おまえはどっちだと思う?」

「うが~…?」

そんなことを聞いたって、でか目にわかるはずもない。
僕は、でか目のしわしわの頭を撫でた。



「考えてたって仕方ない。
とりあえず…そうだな…こっちに行ってみようか。
ま、どっちに行ったってきっと隣町には通じてるよ。」

僕は適当に選んだ道に歩き始めた。



「この地図、本当にいいかげんだよね。
一体、誰が描いたんだろうね。」

でか目とそんなことを話しながら進んで行くと、今までの天気が嘘のように悪くなり、青かった空は鉛色に変わっていた。



「もしかしたら降るかもしれないね。
傘はないのに、困ったなぁ。」

そういえば、この世界に来てまだ一度も雨には降られていなかったことに気がついた。



(もしかして、僕って晴れ男…?)



そうだとしたら、きっと今日も降らないだろう。
僕は急に安心した気持ちになった。
だけど、寒い。
まるで、季節が変わったみたいに、ものすごく寒くなって来たんだ。
こんなことなら、おじいちゃんにコートも買って貰えば良かった。
可哀想に、でか目もぶるぶると身体を震わせている。
でか目は何も着てないから、僕よりももっと寒いはずだ。



「あ……」



少し先に、不意に赤く揺らめくものが見えた。



「でか目…あそこ、見てごらん。
あれ、きっと焚き火だよ。
あそこでちょっと暖まらせてもらおうよ。」



僕達は急ぎ足で焚き火を目指した。







近づくにつれ、それが焚き火だってことがはっきりした。
小柄な女の人が火の前にしゃがみこんで、長い火箸のようなもので火の中をかき回している。
きっと、焼き芋だ。
さっきから良いにおいがしてたんだ。



「あの~……」

僕が声をかけると、女の人は俯いたままゆっくりと立ち上がり、そして顔を上げた。



「さ……」

口が「さ」の形を作ったまま、女の人の動きは止まり、僕をただじっとみつめて…そして、みるみるうちに女の人の顔が熟したトマトみたいに真っ赤に染まっていった。



「……大丈夫ですか?」

「さ、さ……」

女の人は、慌ててまた火の前にしゃがむと、火の中をごそごそとかき回し、ほかほかの焼き芋を刺して、僕の前に差し出した。



「……い、いも!」

「もらって良いの?」

女の人は、何度も小さく頷いた。