(今更後悔しても仕方がない。幸い、迷いそうな道でもないし歩いていこう。)



僕はでか目の手を引いて、とぼとぼと歩き始めた。
隣の町まではそう遠い道のりではなかったから、疲れることもなかったけれど、ただひとつだけ困ったことがあった。



『お腹が減ったなう。』



お腹が減ると気分が落ち込む。
なんだかいろんなことがとてもネガティヴに感じられて来る。



あんなことしちゃたんだもん。
きっと僕は小百合さんに嫌われる。
嫌われて家を追い出されるかもしれない。




(いや……)



そんな生易しいもんじゃない。
今、僕がいるのは異世界なんだよ。
もしかしたら、このまま元の世界に戻れないかもしれないんだ…
下手したら、なんらかの事件や事故に巻き込まれて、死んでしまうかもしれない…



そんなことを考え始めると、僕の気持ちはますます落ち込み、絶望的な気持ちになってしまった。



(はぁ……)



なんだかもう慎太郎さんのこともどうでも良いような気になってきた。
だって、僕は会ったこともない、赤の他人だよ。
僕はこんなにお腹がすいてるっていうのに、人探しなんて……ん?


僕の鼻が食べ物のにおいを嗅ぎ付けた。
見れば近くに食堂がある。
だけど、それがなんだっていうのさ?
僕はお金を持ってない。
何も食べることは出来ないんだ。



「あ…あのぅ……」

僕が何も食べられない悲しみにうちひしがれていると、知らない女の子が僕のすぐ傍に立っていた。



「何?」

「あ、あの…すごく素敵な御召し物ですが、どこで作られたんですか?」

「これは原宿。V系のお店でおじいちゃんに買ってもらったんだ。」

「原宿のぶいけい…きっと都会なんですね。
あ、あの…良かったら、もっと都会のお話を聞かせてもらえませんか?」

「悪いけど、僕、お腹がすいてるから…」

「では、うちにいらっしゃいませんか?
すぐにお食事を準備しますので…」

「え…でも、僕、お金持ってないよ?」

「ご冗談を…お金を取ったりはしませんわ。さ、参りましょう。」



なんだかよくわからないけど…僕は、そのまま女の子の家に行くことになった。