近付いて行くほどに、その人の様子がわかった。
小柄なショートカットの女性だ。
火の側にしゃがみこんで、長い火箸のようなもので火の中をまさぐっている。



「あ、あの……」

俺が声をかけると、その人はゆっくりと俺の方に視線を向けた。
そして、なにか言いたそうにその唇が小さく動く。



「……………も…」

「え…?」

「…………む…も……」

「あ…あの……」



うまくは言えないんだけど…なんだろう?
なにか……すごく怖い……



「さ………」

女性は火箸を持ったまま、ゆっくりと立ち上がる。



「ば、ばか!!
何やってるんだ!早く逃げるんだ!」

「えっ!?」

俺は、不意に背中を掴まれ、突き飛ばされるように背中を押された。
何がどうなってるのかはわからないけれど、とにかく、俺はその声に従わなければならない気がして、一目散に駆け出した。
声をかけた主は、俺の後ろを走ってるようだ。
途中でなにか大きな物音もする…だけど、後ろを振り向く勇気はない。
俺はとにかく三人を振り落とさないようにと、それだけを考えてただひたすらに駆け続けた。



(……ここは…!?)



気がつくと、そこは街道だった。
だけど、そこは二股の道だったはずなのに、今はどこにも分かれ道がなく、ただおかしな白い霧のようなものが漂っているだけだった。



「うわっ!」

俺は、驚いて尻餅を着き、それと同時に三人もそこらに転がった。
だって、その霧の中から突然現れたのは……な、な、なんと!かっぱだったんだから!!



「か、か……」

頭の上には小さなお皿があり、顔は緑色で口もとがとんがっている。
でも、そのかっぱは女の子の着るワンピースみたいな服を着ていて…
……そういえば、さっきの声も女性のものだった。

かっぱは俺が驚いてることに少しも構わず、呪文のようなものを唱えながら、指でおかしな動作をして空を切る。
それと共に、白い霧はぱっと消え失せた。