「……あれ?おじいちゃん、どうかしたの?」

美戎は、居間でテレビを見ておった。



「……眠れなくてな。
おまえも、遅うまで起きておるのじゃな。」

「このあたりは、アニメばっかりやってるチャンネルがあるんだね!」

「ケーブルに入っておるからな。
地上波だけでは、このあたりはほんの数局しか映らんのじゃ。」

「なるほど!これが、ケーブル放送なんだね!
すごいねぇ!」

美戎は家でテレビばかり見ていたそうで、そのおかげで世間のことはいろいろと詳しく知っておった。
ただ、現実に見たり体験したことはほとんどなさそうじゃった。
家から出たことがないというのじゃから、それも当然じゃ。



「少し話でもするか。」

「そうだね。」

「では、茶でも淹れよう。」

わしは、湯を沸かし、京都で買って来たお菓子と一緒に、こたつの上に運んだ。



「わぁい!お菓子だ!」

美戎は、菓子を見て、子供のようにはしゃぎ、それを掴んで口の中に放り込んだ。
きっと、こんなものをたいらげるには数分もかかるまい。



「のう…美戎よ。
実にくだらないことを聞くが……
おまえさんは、どんなに食べても太るということはないのか?」

「多分、ないよ。
今まで体型が変わったことはなかったから。」

「そうか、よほどお通じが良いのかのう…」

「お通じはないよ。」

「……なんじゃと?」

「僕、トイレには行かないんだ。」

「ええっっ!」



言われるまで気付かなかったが、そういえば、美戎がトイレに行って来るといったことは一度もなかった。
ただ、どこに行っても美戎は常にあちこちをうろうろしとるから、そんな時に行ってるものと思い込んでおったのじゃ。




「そ、そんなに食べて……食べたものはどうなっとるんじゃ?」

「そんなこと、僕は知らないよ~
でも、多分……本来の式神はこんな風にものを食べないから、だから、トイレにも行かなくてすむんじゃない?」

……驚いた。
一見すると、ただの人間にしか見えん美戎じゃが……
式神の中でも、相当変わった者のようじゃ。



「で、では、美戎…もしも、食べるものがなくなったらどうなる?
おまえは倒れてしまうのか?」

美戎はわしのその質問に首を振った。



「食べなくてもなんともないよ。
ただ、機嫌は悪くなるけどね。」

「では、睡眠はどうじゃ?
おまえは、眠らなくともなんともないのか?」

「それも同じだね。
僕は長年一日に八時間眠る生活をしてたから、眠らないと機嫌が悪くなるよ。」



(……なんと!)



美戎は眠らずとも食べずとも、機嫌が悪くなるだけらしい。
それなら、どんな世界に行っても生き延びていけそうじゃ…!