「さ、次はこっちじゃ。
ここで乗りかえて……ん…?
美戎……どうしたんじゃ?」

「おじいちゃん、今夜は東京に泊まって観光してから行こうよ!」

「なんじゃと!?」

「僕…一度でいいから東京に行ってみたかったんだよねぇ……
あそこじゃ、家からは絶対に出ちゃいけないって言われてて…最初の頃なんてあの部屋からも出してもらえなかったんだよ。
ちっちゃいテレビを買ってもらって、朝から晩までそれを見るだけの日々…食事だってずっと一人だったんだから……
早百合さんが出稼ぎに行くようになってから、おばあちゃんがお客さんがいない時は部屋から出て良いって言ってくれて、それからは一緒にごはんを食べるようにはなったけど、それでも外には出してもらえないし、着る物だってずっとあの白い着物だけだったんだ。」

「そ、そうか……それは気の毒にのう……」

言われてみれば、美戎の着物はすすけてすりきれておった。
服を買う時も、美戎は姿を消し、これが良いと言うものをわしが買ってトイレで着替えさせ、あの着物はそのままごみ箱行きになった程じゃ。
とはいえ、慎太郎があっちの世界でどんな目にあってるかはわからない。
一刻も早く美戎に向こうに行ってほしいというのが本音じゃ。



「おまえの気持ちはよくわかるが…わしとしては……」

「僕は下手したらもうこっちには戻って来れないかもしれないんだよね……
どんな所なのかもわからない異世界に、僕は見ず知らずの慎太郎さんのために行かされる……
生まれて来てから今まで良いことなんて何もなかった。
あの暗い部屋に閉じ込められて、何の自由もなく、友達の一人もいなくて…
そして、やっと出られたかと思ったら、行き先は異世界……不幸だね。
……まぁ、半端な式神に生まれた僕にはそれがお似合いなのかもしれないけどね……」

か細い声でそう言った美戎の瞳には、うっすらと光るものが浮かんでいた。



「……あぁ、わかった、わかった。
今夜はここに泊まろう!
そして、明日は朝から観光して、夕方の新幹線で家に向かおう。
……それで、ええな?」

「わぁい!おじいちゃん、大好きだよ!」



かくして、美戎の希望通り、わしらはその晩、東京に泊まる事になった。