「良かったなぁ…ようやく、おまえの願いが叶う日が来ましたな。」

美戎と呼ばれるおなごは、何も答えず、ただばあさんの言葉に小さく口端を上げるだけじゃった。



「話は聞いとったんやろ?
ええか?おまえは、壷の向こうの世界に行って、こちらのお孫さんの慎太郎はんを連れて戻るんや。」

「え、ええっ!ど、どういうことですか!?
そもそもこの方は一体…?
さっきは突然出て来られたように見えましたが……」

わしがそう言うと、ばあさんは俯いてほんの少し肩を揺らした。



「この子は式神でおます。」

「し、死神ですと…!?」

「そうやおへん。
死神やのうて、し・き・が・み。
簡単にゆうたら、陰陽師の家来みたいなもんですわ。」

「なんと!この綺麗なおなごが煎兵衛はんの家来!?」

なぜだかわからんが、ばあさんは、また俯いてくすくすと笑いおった。



「おなごやおへん。
この子はこう見えてもれっきとした男や。
それに、煎兵衛はんのやのうて、孫の早百合の式ですわ。」

「お、お孫さんの!?では、お孫さんも陰陽師…?」

なんと、目の前の美しいおなごは、おなごではなく男だったらしい。
しかも、式神…いやはや……
どこからどう見ても人間に見えるのだが…とはゆーても、空気の中から出て来るあたりは確かに普通の人間であるはずがない……



「孫は陰陽師ではおへん。
せやけど、その血はえらい濃いいに遺伝されてましてなぁ……
こんまい時から不思議な力を持ってましたんや。
そして……孫は、ついに式を作ってしもたんどす。」

「式神を……作る……?」

「そうどす。
陰陽師は自分の思念からパートナーを作ることが出来るんどす。
とはゆーても、早百合は特別陰陽道を極めたこともなく、なんや、漫画で読んだとかなんとかゆーてましたわ。
せやから、そんなもん、まさか作れるはずないとおもてたんやけど、早百合はそれを作ってしもうたんどす。」

信じられない事をばあさんは事もなげに話しおった。
思念からパートナーじゃと…?
しかも、修行もしておらん者がそんなものを……



「それが、この方じゃと……?」

「そう…この美戎です。
当時、早百合はビジュアル系にえろうハマってましてなぁ…
それで、この子はこんな風になってしもたんどす。
まぁ、こんなもんを作れること自体、すごいことではおますけど、外見重視やったことと、半端な知識しかなかったせいで、美戎は姿を消すことくらいしか出来しませんねん。
といいますか、式っちゅーのは、ほんまはこないな風に誰にでも見えるもんではないんどす。」

「え……」

「あ、心配はいりまへんえ。
ゆーたら、この子の仕事は人探しやおまへんか。
そんなん、ちょろいちょろい、」

ばあさんと美戎は、わしに向かってVサインを示した。