部屋は先程の展示室の三倍くらいはある広いものだった。
蛍光灯で照らし出された床には、なにやら図形のようなもの……魔方陣とかいうものだろうか?
それが描き込まれており、いかにも異様な雰囲気じゃ。
窓はなく、古い書物が壁一面におさまり、小さな机の上には書き付けのようなものが束ねてあった。



「ここは滅多なことではお見せすることのない煎兵衛はんのお部屋どす。
暗いさかいに蛍光灯だけはつけたんどすけど、後は当時のままなんどすえ。」

「さすがにすごいもんですなぁ……」

別に疑ってたわけではないが、この部屋を見てようやく煎兵衛が陰陽師だったことを実感した。
この部屋は、霊感なんてもののないわしでもなにやら背筋に寒い物を感じる。



「それはそうと、お客はん……」

そう言ったばあさんの目がするどく光る。



「な、なんですかな?」

「お客さん…ここに来やはったほんまの理由はなんですのん?」

「ほ、本当の理由ですと?」

「あんさんは、言わはらへんけど、なにかお困り事があってここに来やはった。
……ちゃいますか?」

わしは思わず息を飲んだ。
さすがに、陰陽師の末裔じゃ。
このばあさん…ただののんベえで大飯食らいのごうつくばあさんではなかったようじゃ。



「その通りです。
実は……」



わしは素直に慎太郎のことを話した。
きっと、ばあさんはお見通しなんじゃ。
隠したところで仕方がないし、言ってみればこのばあさんは親戚のようなもんじゃ。
隠す必要もなかろう。



「おやまぁ…そら、えらいことやおまへんか。」

「そうなんじゃ。
それで、ここに来れば何か良い案がみつかるのではないかと思いましてな……」

「そういうことなら……ええ案がおます。」

「ほ、本当ですか!?」

ばあさんは、意味ありげな笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。



「……美戎、出といやす。」



(び、びじゅう??)



「え……ひ、ひーーーー!」

わしは思わずおかしな声を出してしもうた。
なぜなら、何もない所から美しいおなごが出現したのじゃから。
とても美しいおなごじゃが、肌の色は雪のように白く、細くていまにも折れてしまいそうな身体をしておった。