「お客さん、今日はほんまに楽しおしたわぁ。
今日の観光で、このあたりの良さを再認識したような気がしますわ。」

「……そうですか。
それは良かった。」

「ほな、最後に煎兵衛はんの部屋でも見はりますか?」

「そうですな。
……え?煎兵衛さんの!?」

意味ありげににっこりと微笑んだばあさんが先に立ち、わしを連れて行ったのは、「煎兵衛博物館」と書かれた部屋じゃった。
入館料は千円とあったので、財布を出そうとすると、ばあさんがそれを制しゆっくりと首を振った。
さすがのばあさんも、今日の散財に少しは気が引けているのだろう。

ふすまを開けるとそこは四畳半ほどの小さな部屋で、煎兵衛の肖像画や相当くたびれた装束などほんの数点が飾られてあるだけじゃった。



(なんじゃ…こんなものか……)



一瞬でも期待して損をした。
こんなものを見たところで何の役にも立たん。
……それにしても、相変わらずのぼったくりじゃ。
たった、これっぽっちの拝観で千円とは。
こんなもの、3秒もあれば見終わるぞ。



「あのぅ…わし、今日は疲れたので……」

「そうですのん?
ほんだら、煎兵衛はんの部屋は見るのやめときますか?」

「え…?煎兵衛さんの部屋?」

そうだ…そういえば、さっきも確かばあさんは「部屋」と言うた。
では、ここのことではないのか!?



「み、見ます!
見せて下され!」

ばあさんは焦るわしを見て肩をすくめて笑い、奥の壁に片手を付けて何事かを小さな声で唱えた。



「おぉっっ!」

その途端、壁が回転し、ばあさんの手招きにわしは慌てて着いて行った。
壁が閉まると、そこは真っ暗じゃった。



「あ…あの……」

「片手を壁に付けて、黙ってまーっすぐお歩きよし。」

ばあさんはわしの想いを察したかのように、そう指示し……



ほんの少し歩いただけで、襖がすっと動く気配と音がして、目の前が急に明るくなった。



「こ、これは……!」