ヨウカイ・イセカイ・キキカイカイ

***



「おめでとう~!」

「おめでとう、慎太郎さん!」



あれからの数ケ月は嘘みたいに早く進んだ。
早百合さんはいとも簡単に戸籍を貸してくれることを了承し、またまぐろを追っかけてインド洋に行ってしまった。
両親はゆかりさんが46歳ということには驚きつつも、だからといって結婚を反対することなく、俺達の式はとんとん拍子に決まってしまった。
そこそこの結婚式場で、俺達はそこそこの結婚式を挙げた。



ハネムーンは、じいちゃんや小餅さんや美戎と一緒に、あっちの世界に向かった。
久しぶりに会ったチビ達は、俺達との再会をとても喜んでくれた。



結婚後、俺達は小餅さんの強いすすめで、安倍川家の近くに住むことになった。
幸い仕事もすぐにみつけることが出来た。
美戎は小餅さんの知り合いがいるという近所のホストクラブに見習いとして入った。



***



「ただいま~」

「おかえり。」

家に帰ると、良いにおいがただよっててエプロンをかけたゆかりさんがのれんから顔をのぞかせて出迎えてくれる。

幸せ過ぎて、まだどこか夢みたいに思えてしまう。
あっちの世界で妄想したことが、こうして現実になったんだもんな。



「今日はオムライスっていうのを作ってみた。」

「小餅さんに教えてもらったのか?」

「うん。」

ゆかりさんは、毎日、安倍川家に行っては小餅さんに料理を教えてもらってるようだ。



なんだかんだあったけど、あっちの世界に吸い込まれたことは、俺にとっては良い転機になったと思ってる。



(だって、こんな可愛い嫁さんがもらえたんだもんな。)


ゆかりさんや美戎がいるから、あっちの世界にも行きたい時はいつでも行ける。
だから、チビ達とも会いたい時はいつでも会える。



(……本当に幸せだ。)



「慎太郎…?なんだよ、にやけて……」

オムライスを運んできたゆかりさんが、そう言って、俺を睨む。



「な、なんでもないよ。」

「また天国の事でも考えてたんだろう。」

「ち、違うって!」

ぷいと顔をそむけたゆかりさんを、俺は黙って抱きしめた。



「な、なんだよ、急に……」

「ゆかりさんと結婚出来て幸せだって思ってたんだ。」

「……うまいこと言いやがって。」

口ではそんな風に言ったけど、ゆかりさんの目は急に優しい視線に変わってた。



「本当にありがとう、ゆかりさん…」

俺は、幸せを噛みしめながら、ゆかりさんの柔らかな唇にそっと口づけた。



~fin.