ヨウカイ・イセカイ・キキカイカイ





「まずは乾杯ですな。
慎太郎はん、ゆかりちゃん、ご結婚おめでとうさん。
お二人の幸せを願うてかんぱーい!」

「か、乾杯ー!」

本当はまだ早いって言いたかったんだけど、なんだかその場のノリで、皆、乾杯してしまってた。
小餅さんは喉を鳴らして、ぐびぐびとビールを飲み干す。
相変わらずすごい飲みっぷりだ。



「ぷはー。
温泉上がりのビールはよう効きますなぁ…
そらそうと、結婚式はいつにしますんや?」

「え、そ、そ、そんなこと、まだ何も……」

「善は急げて言いますやろ?
それに、ゆかりは見ての通りのべっぴんや。
もたもたしてたら、他の男はんに取られてしまいますえ。」

「え…で、でも……
ゆかりさんは、あっちの世界の人だし、ほら…戸籍のこととかもあるし……」

「あぁ…せやったなぁ……」

小餅さんは、刺身をつつきながら、やたらと結婚をせかすようなことばかり言う。



「まぁ、細かいことはそないに気にせんかてなんとかなるもんどす。」

「戸籍のことは細かいことじゃないでしょう。
戸籍に入れないと、たとえば子供が出来た時とかに困りますし…」

「まぁ、確かに……」

「戸籍って何なんですか?」

ゆかりさんはやっぱり戸籍の事は知らないらしく、きょとんとした顔をしていた。



「えーっと、それはじゃな。
各自の身分…どこの誰の子供だとか、いつ生まれたとかを記したものなんじゃよ。
この世界では、誰もが持ってるものなんじゃ。」

「それがないと何か困るんですか?」

「うん、まぁ、いろいろとね……」

ゆかりさんは、今一つよくわからないような顔つきで、頭をひねっていた。
あっちの世界にはそういうものはなかったから無理もない。



「なんや闇の組織に頼んだら、そういうものも手に入るみたいなことをドラマで見たことはありますけど……」

「小餅さん…それはいくらなんでも無理です。」

小餅さんの怖い話に、俺は苦笑いするしかなかった。



「せやけど、ほんまに難儀どすなぁ…
なんぞ、ええ案は……あーーーっ!」

小餅さんは何かを思いついたらしく、大きな手振りで膝を叩いた。