ヨウカイ・イセカイ・キキカイカイ

「慎太郎……どうかしたのか?」

ゆかりさんは少しも悪びれた様子もなく、俺にそう言った。



「ゆかりさんは俺のことなんて、なんとも思ってないんだろ?
ただ美戎を忘れるために、俺と結婚してもいいかなって考えたわけだ。」

俺はちょっと頭に血が昇ってしまって、その苛々をいやみな言葉でゆかりさんにぶつけた。



「なんともって……慎太郎のことはけっこう良い人だとは思ってる。
それに、あんたの親御さんもあたいとの結婚を望んでるようだったし……」

「親なんて関係ないだろ!?
大切なのは本人同士の気持ちじゃないか。」

「えっ……」

それは本当に驚いた顔つきだった。
どこか不安げにも見えるゆかりさんの表情を見ていて、俺はあることに気がついた。



そうだ…ゆかりさんは若くは見えても200歳を超えてるんだ。
あっちの世界の結婚のことはそう詳しくは知らないけれど、日本でも昔は相手の顔さえ知らずに親の決めた相手と結婚してたって話を聞いたことがある。



(そうか…だから……
ゆかりさんは俺のことを馬鹿にしてるわけでもなんでもないんだ。
ゆかりさんがかっぱになる前のあっちの世界は、きっと昔の日本と同じような感じだったんだ。)



そう思うと、苛々した気持ちはどこかへ吹き飛んだ。



「ゆかりさん、河童になる前には好きな人はいなかったの?」

「え?そ、そんなものはいない。」

「じゃあ、もちろん結婚もしてないよね?」

「あぁ…あたいと同じくらいの友達はどんどん片付いていってるのに、あたいにはなかなか縁談がなかった。
多分、父様の弟子の中から選ばれるんじゃないかと思っていたけど、やっぱり、父様達は呪いのことを気にかけてたんだろうな。」

「そうか……」

今の話しぶりから、やっぱり俺の推測したことは正しかったんだと思えた。



「そ、それじゃあ、ゆかりさん……」

「なんだ?」

「あらためて訊くよ。
お…俺と結婚してくれる気はある?」

「あぁ…本当にこんな化け物みたいなあたいでも良かったら…」

「ゆかりさん、そんな風に言っちゃだめだ。
ゆかりさんは素敵な女性だ。
化け物なんかじゃない。」

「ありがとう、慎太郎……」

「ゆかりさん……お、俺と結婚して下さい。
必ず、幸せにするから。」

「慎太郎……」

俺をみつめるゆかりさんの瞳はキラキラ輝いて…
あぁ、最高だ!
こんな可愛い人と結婚出来るなんて…!まるで夢みたいだ!
調子に乗った俺はゆかりさんの身体を引き寄せ、そっと唇を重ねた。
ゆかりさんもそれをいやがるそぶりはなかったからほっとした。



「いやぁ、何してはんの~?やらしいわぁ。
おぉ、はずかしぃ…」

「お、おわっ!!」

突然聞こえて来た声に、俺達は反射的に身体を離した。
見ると、やっぱりそれは小餅さんの声で、両目を覆った指の間から俺達を見て、不敵な笑みを浮かべてた。