「まぁ、ゆかりはこないなべっぴんやさかい、慎太郎はんがメロメロにならはるのも当然のことどす。
どうぞ許したげて下さい。」

「は、はぁ…」



謝礼旅行に行く前に、まずは両親に挨拶をと思ったら、小餅さんが、俺の家について行くと言いだし、さらにはゆかりさんのおばあさんということにすると言い出したんだ。



だけど、それは意外と悪いことではなかった。
あの流暢な話しぶりにほだされたのか、それとも、ゆかりさんが美人なせいか、なんだかよくはわからなかったけど、両親は俺が長い間留守をしていたことをそれほど強くは怒らなかった。
夜には、みんなでお寿司を食べて、お酒も入ってまたまたどんちゃん騒ぎとなった。
俺の両親は、けっこう真面目なタイプだと思ってたんだけど、お酒が入ると意外とノリが良くて…
それほど怒られることもなく、楽しく過ごせたことに、俺は安堵した。



「ところで、慎太郎…
この先もゆかりさんとは真面目におつきあいするんだな?」

「えっ!」

次の朝、みんなで朝ごはんを食べてる時に父さんがそんなことをいうから、俺は食べていたパンがのどにつかえてしまった。

なんだよ、いきなり…
それに、俺はなんて言えば良いんだ?
父さんは「この先も」なんて言ったけど、俺は元々ゆかりさんとはつきあってもいないんだぞ。



「どうした?慎太郎…」

「そ、それは……」

「結婚しはったらよろしいやん。
なぁ、山ノ内はん?」

「え…そ、そりゃあ…
こいつももういい年ですし、結婚して落ち着いてくれたら、私達も安心ですが……」

こ、小餅さん!
突然、何を言いだすんだ!
どうしたものかと焦るばかりで、俺は何も言えないでいた。



「ゆかりさんにはその気はおありなんですか?」

「え……は、はい。
慎太郎さんが私でも良いとおっしゃるなら……」

「えーーーーっっ!」

「慎太郎、なんて声を出すんだ。」

「あ、慎太郎!そろそろ電車の時刻じゃぞ!」



なんだかわけがわからないままに、俺達は慌ただしく小餅さんのための小旅行に出発した。