「慎太郎…本当に知らんかったのか?」

「そ、そ、そんなこと…
もちろん、知らなかったよ。」

ゆかりさんもやっぱり驚いたような顔をしていた。



「美戎が式神じゃから、おまえさんを探しに行ってもらったんじゃ。
普通の人間にはこんなこと頼めんからな。」

そうだったのか。
だから、美戎を……



(あっ……)



俺は以前、美戎が言ってたことを思い出した。
美戎は確か、そんなことを言っていた。
早百合が自分を作ったとかなんとか…
だから親もいないし、生まれた時から大人だったってことなのか…
だったら、黒い組織っていうのは……



(もしかして、俺の…妄想…?)



そう気付くと、全身の力が抜けていく想いだった。



「ま、とにかくだいたいのことはわかった。
じゃあ、おれは風呂に入る。
美戎…すぐに風呂をわかせ。」

「……はい。」



早百合に続いて美戎は部屋を出て行った。



「慎太郎はん、ほんまに美戎のこと知らはらへんかったんどすか?」

「も、もちろんです!
だ、だって…美戎は人間と少しも違わないし…」

「ほんまにそう思わはりますか?」

「はい、今でも信じられないくらいです。」

「そうどすか。
ほなら、働かしてもバレまへんな。」

そう言って、ばあさんは不敵な笑みを浮かべた。
何かよからぬことを考えているようだ。



「それにしても、早百合さんが男性だったなんてびっくりしましたよ。」

「しっ!」

ばあさんは口元に人差し指を立てて、あたりを見渡した。



「そんなことが早百合の耳に届いたら殺されますえ。」

「ど、どういうことです?」

「早百合はあれでもおなごどす。
まぐろ漁船に乗る時に、おなごはあかんていわれたそうどす。
そやさかい、早百合はその時に女を捨てるて決心して、あんなに髪を短こうして、男みたいな服装をしてますのんや。
みな、あてらの生活を支えるためのことどす。」

「え……そ、それじゃあ、ほ、本当に、早百合さんは女性なんですか?」

「へぇ。」

ばあさんは事もなげにそう答えた。



「さてと…話もすんだことやし、しばらくここで寝させてもろてよろしおますか?」

「こ、ここで?」

「へぇ…下に降りたらお邪魔やさかいに。
なんせ、ひさしぶりのことやし、早百合はああ見えて肉食女子どっさかいに。」

そう言って、ばあさんはにやりと笑う…
いや、見るからに肉食には見えるけど……違う意味でだけどな。



(美戎…お前、本当に何の疑問も感じてないのか?)



二人のことを考えると、思いっきり大きなため息が漏れた。