「そういうことだったのか。
美戎…おまえ、それなりに役に立てたんだな?」

早百合がそう言うと、美戎はとても嬉しそうに顔を綻ばせた。
今でもまだ信じられない。
美戎にそんな趣味があったなんて…
いや、あったにしろ、美戎のBLの相手なら、それなりに美しい男子だと思ってしまうよな。
よりにもよって、なぜこんなゴリラみたいなおっさんと…



(あ、そっか…
美戎は洗脳されてるから…)



そう思うと、美戎のことが殊更不憫に感じられた。
可哀想に、美戎の奴…
きっと無理矢理に……



「それで、そこの女は誰なんだ?」

「あぁ、このお方は安倍川由香里はんどす。」

「安倍川…?」

「そうなんだ。
ゆかりさんはあっちの世界の安倍川家の最後の子孫なんだよ。
こっちとは違って、あっちの壺には結界が張ってあったんだけど、その結界を破るには安倍川家の血が必要でね…
それで、ゆかりさんにはお世話になったんだ。」

「へぇ…あっちの安倍川家…ねぇ……」

そう言いながら、早百合はゆかりさんの顔を失礼な程じっとみつめた。



「何もこの女に頼まなくても、おまえがいれば結界を破れたんじゃないのか?」

「え?でも、僕は……」

「忘れたのか?
おまえを作る時、おれの血も使ったんだぞ。
つまり、おまえには安倍川家の血が流れてる。
だったら、それで結界は開くはずじゃないか。
なんだかんだ言って、おまえ、まさか、この女に手を付けたんじゃないだろうな!」

早百合は激しい剣幕でそう言うと、美戎の胸ぐらを掴み上げた。



「そ、そんなことしてないよ。
ぼ、僕…早百合さん以外の女には興味もないし……」

「本当か!!」

早百合は、美戎を掴んだまま、ゆかりさんに向かって厳しい声で訊ねた。



「あぁ、本当だ。
美戎とはそんな関係になったことはない。」

ゆかりさんは本当に肝が据わっている。
怒った早百合の形相は、まさに野生のゴリラそのもので、俺は身体が震える想いだったというのに、ゆかりさんは早百合の目を見てきっぱりとそう答えたんだから。



「……そうか。」

早百合は納得したのか、ようやく美戎を掴んだ手を離した。