とりあえず、じいちゃんとゆかりさんは部屋の出口の一番近くに座らせた。
何かあったらとにかくすぐに逃げられるように…
残念なことに、部屋の中には武器になりそうなものも見当たらない。



「なんだ?昨夜はもしかしてすき焼きでもしたのか。
えらく豪勢だな。」

昨夜は、片付けもせずそのままカラオケに行ったので、すきやきを食べた鍋もそのままだった。
それを見て、早百合は眉間に皺を寄せた。



「今夜は早百合ちゃんの無事帰って来たお祝いしまひょな。
何やったら、すき焼きにしまっか?」

ばあさんと美戎は、散乱したものをてきぱきと片付けた。



「そんな贅沢してたら、金なんかあっという間になくなっちまうぞ。」

「何ゆうてますのん。
早百合ちゃんの稼いできたお金でやのうて、勘太郎はんのおごりですやん。
なぁ、勘太郎はん?」

「え……ええっ!?
は…はい、そうですな。」

じいちゃんは驚きながらも頷いた。
ここに来てから、お金のことはすべてじいちゃん任せだ。
その上、なんでこんなおっさんのために…と思ったが、そこは美戎に俺を探しに行かせた手前、じいちゃんも嫌とは言えないんだろう。
本当に申し訳ない気分だった。



「ばあさん、事情とやらを説明してもらおうか。」

偉そうな顔をしてふんぞり返った早百合が、そう言った。



「へぇ、実は……」

ばあさんは話し始めた。
俺がじいちゃんの蔵の壺に吸い込まれてしまい、それを知ったじいちゃんがここを訪ね、そして、美戎に俺のことを託したことを…
おしゃべりなばあさんのその話は、まるで落語か講談を聞いてるようだった。



「そんなことがあったのか。」

「この度は、美戎さんには大変お世話になりました。」

部屋の片隅で、じいちゃんが頭を畳にこすりつけるようにしてそう言った。
別に早百合に世話になったわけじゃないんだから、そんなことするなよって言いたかったけど、その姿を見ていたら、じいちゃんが俺のことをどれだけ心配してくれてたかっていうことが改めて感じられて、俺は胸が熱くなった。