「かんぱ~い!」



わしとばあさんは、缶ビールをがちんを合わせた。



「ところで、陰陽師のなにが知りたいんでっか?」

「実はわしは……」



おそらくこっちの人間もわしの祖先のことは知っているはず。
異世界に行った山ノ内勘太郎の子孫であることを、わしはばあさんに打ち明けた。



「な、な、なんやて!
お客さんが、うちの煎兵衛と異世界に行った山ノ内勘太郎の子孫やて?」

そう言いながら、ばあさんは先程わしが書いた宿帳を再び手にした。



「ほんまや!
滅多に見られんくらい、汚い字~や。
こんなことまで遺伝するんどすなぁ……
劣性遺伝ていうやつやな。」

そこまではっきり言うか?
むっとはしたが、わしの先祖がとても字が下手だったこともちゃんと知ってるところを見ると、やはり、このばあさんは自分で言ってた通り、いろいろなことを知っているようだ。



「それで……」

話しかけた時、わしは重要なことを思い出した。



そうじゃ…
安倍川煎兵衛は、向こうの世界を気に入り、こっちには戻って来なかったということではないか。
だったら、ここには……
あれ?じゃあ、ここは、この老婆は一体……



「あ。あの……
煎兵衛殿はあちらの世界が気に入ってこちらには戻ってこられなかったのですよね?」

「そうでおます。」

「だったら、安倍川家には子孫がいらっしゃらないのでは……?」

「何を言うたはるんですか。
煎兵衛があっちに行った時にはすでに三人の息子がおったんです。
奥さんとうまくいってへんかった上に、元々浮気性やったらしゅうて、それでこっちには戻ってきーひんかったって話だっせ。」

「そ、そうだったんですか!」



なんとも嬉しや。
安倍川家の血は、今も絶えることなく、脈々と受け継がれておったのじゃ。
ここに来たことは、やっぱり間違いじゃなかったんじゃ!



「それで…今はどなたが陰陽師を継がれていらっしゃるんですか?」

「陰陽師?
そないなもん、もう誰も継いでしまへん。
昔ならともかく、今はそないな職業で生きていける時代やおへんさかいな。
うちもだんだん没落していって……
昔は、ローポンやそば屋のあたりまであった敷地もどんどん売って小そうなって……
しかも、今の安倍川家当主の呑兵衛は、会社をリストラされてから、あてらを置いて行方不明。
しゃーないよってに、昨年からここを旅館にしたものの、お客なんてめったに来はれへん。
たまぁに、物好きなお方がふらっと来られるだけですわ。」

ばあさんの話を聞くうちに、希望の光がだんだん小さくなって消えていくような気がした。