「慎太郎はん、辛気臭い顔しとらんと、もっと飲みなはれ。」

「もうそんなに……あ、あ……」

ばあさんは、まだ飲み切ってない俺のグラスに、なみなみとビールを注ぎ足した。



美戎が昨夜じいちゃんの家ですきやきを食べたことを話したら、ばあさんはすきやきが食べたいと言い出して、じいちゃんはそのための電気鍋まで買わされた。
その他にも、誰がこんなに食べるんだってほどの食材とアルコールを買い込み、俺達は全員両手に抱えきれないほどの荷物を持って帰宅した。

食事の準備が出来ると、俺達の泊まる特別室で俺達が無事にこっちに戻って来たお祝という名目の宴会が始まった。
美戎とゆかりさんの大食いは知ってたけど、ばあさんも二人と同じくらいの大食いだった。
みるみるうちに、テーブルの上の食べ物が消えていく…
それはもう信じられない程のスピードで……
俺とじいちゃんはその様子にただただ驚くばかりだった。

ばあさんは、向こうの世界のことをそれなりには聞きながらも、本当はそれほど興味がないのか、三味線を持ち出してへたくそな歌を歌い始めた。
それに合わせて美戎は踊るし、なんだかそのうちに俺も真面目な顔してるのが馬鹿らしく思えて来て、何杯か酒をひっかけたら、なんとなく浮かれた気分になって来て…



「よ~し、俺も歌うぞ~!
小餅さん、伴奏してくれ!」

「あて、若い人の歌はしりまへんえ。」

「だったら、カラオケ行こうよ!カラオケ~!」



美戎の提案に反対する者はいなかった。
俺達は、それからカラオケに繰り出した。
だいぶ酔いが回って来た俺達は、歌って騒いで大笑いして……

宿にもばあさん以外には人の気配はなかったことし、俺の警戒心はすっかりほぐれ、意外にも心から楽しめる一夜となった。