「そうだね…
たいへんだったと思うよ。
ところで、その呪いがどうして解けたの?」

「そ、それは……」

ゆかりさんの頬が赤く染まり…俺のことを横目でちらちら覗き見る。



(え?…あ……もしかして……)



俺はさっきのことを思い出した。
まさかとは思うけど……もしかしたら、さっきのチューが…!?
そういえば、童話にも似たようなものがあったぞ。
長い間眠ってたお姫様に、王子様が口づけしたら目が覚めたって話が……
じゃあ、やっぱり…



「ゆかりさん、もしかして、さっきの……」

ゆかりさんは俺の言おうとすることを悟ったようで、小さく頷いた。



「慎太郎さん、何なの?
さっきのって……」

「えー…そ、それはだなぁ…」

「早く教えてよ。」

「だ、だから…それは、俺がゆかりさんに、ちゅ…ちゅーを……」

少ないとはいえ、皆の前でこんなことを話すのは恥ずかしい。
って言うか、なんで俺あんなことやっちゃったんだろう??
今、思い出しても恥ずかしさで汗が出て来る。



「ちゅーって……
えっ!慎太郎さん、ゆかりさんにチューしたの!?」

「ちゅー…?」

金兵衛さんは意味がわからないのか、ぽかんとした顔をしている。



「父上はなんとか呪いを解いてくれと頼んだけれど、吹雪女はそんなことは聞き入れず…
ただ、もしも、かっぱを本気で愛してくれる人間の男が現れたら、その時には呪いは解けるだろうと笑って去って行ったそうだ。」

「そうか、それで呪いが解けたんだ…!
慎太郎さん、ゆかりさんに告白したんだね!
…あぁ、そうか…それであの時……」

「あの時……?」

美戎がどの時のことを言ってるのか気付くのに、時間はかからなかった。



「あ、あ、あれは、その…そういう意味じゃなくて…」

「いいって、いいって。」

美戎が薄笑いを浮かべながら、意味深な視線で俺をみつめる。
完全に誤解されている……
でも、ゆかりさんのあのチューはどういう意味だったんだろう?
人間に戻れた喜び?
それとも…俺の想いを受け入れてくれたのか…??



「話は尽きないでしょうが、まずは昼飯でも食べませんかな?
わし、さっきから腹の虫が騒いでて…」

「あ、あたいがやります。」

そういって、ゆかりさんは立ち上った。



昼飯…?
ふと、柱の時計を見たら、いつの間にかもう昼近くになっていた。
なんだかあっという間だったような気がするけど、意外と時間は過ぎてたんだ。