「そんなにあたいのことが信じられないのか?
あたいは、あんたらの生まれた町を見てみたいだけなんだ。
あんたらの家に行ったり、家族に会ったりなんてしない!
一緒に旅をしてたことだって誰にも言わない…!」

「ゆかりさん……」

完全に誤解してる。
俺は、なにもそんなことを気にしてるわけじゃない。
ただ、俺達の故郷なんてものが本当はこの世界にはなくて…
だから、困ってるだけなんだ。
やっぱり言うしかないのか?本当のことを……
でも、信じてもらえるだろうか?
今まで騙してたことをゆかりさんは許してくれるだろうか…?



「わかってるよ、そんなこと…!」

ゆかりさんが感情的な声を上げた。



「……え?
わかってる…って…?」

「……あたいのことが恥ずかしいんだろ?
かっぱなんかと一緒に旅をしてたなんて、そりゃあ恥ずかしいよな…わかってるよ、そんなこと…!!」

「ゆ、ゆかりさん、そうじゃないって。
俺はそんな風に思ったことなんてないって!!」

「なんだよ、今更!
そんな無理することないだろ!」

「無理なんてしてないって!
俺は、かっぱのことを恥ずかしいとかいやだなんて思ったことなんてない!」

「嘘を吐くな!
……今更そんなこと言わないで良い!」

「嘘じゃないって!
俺は…河童を差別する気持ちもないし……
それどころか、俺は……俺は……ゆかりさんのことが好きだ!」

言ってしまった。
ゆかりさんが感情的になってるから、俺にもそれが感染して……
そして、ついに告白してしまった……



「……好きだって?」

ゆかりさんの態度は意外なものだった。
まるで、俺の告白を小馬鹿にしたかのように、皮肉な笑いに肩を揺らしたんだ。



「ゆかりさん…どうして笑うんだ?」

「おかしいからに決まってるだろ?
かっぱのあたいが好きだって?
あんた、頭がいかれてるんじゃないのか?」

「そ、そんなことない!
ゆかりさんは真面目で信頼できる人だし、繊細だし優しいし、
お、俺は真剣にゆかりさんのことが好きだ!」

清水の舞台から飛び降りるような必死の想いで俺がそう言ったのに、ゆかりさんは俺のその気持ちを踏みにじるように大きな口を開けて笑った。



「冗談は止してくれ!
あたいはかっぱだぞ。
それを真剣に好きだなんて…ふざけるのもたいがいにしろよ。」

そして、笑うのをやめたかと思うと、急に今にも泣きだしそうな顔に変わって……



「わかってるよ…かっぱにしてはマシな方だって言いたいんだろ?」

そう言って、ゆかりさんはとても心細そうな瞳で俺をじっとみつめた。



「そうじゃない…お、俺は本当にゆかりさんのことが…!」

俺はその想いをどうしてもわかってほしくて…気が付いたら俺はゆかりさんを抱きしめて、ゆかりさんのとんがった固い唇に口付けていた……