「じゃあ、行って来るね!」

美戎は俺に向かって、意味ありげな目配せをする。



「あ、あぁ……」

それが何を意味するものなのか俺にはわかってた。
残念ながら応えられないけど、美戎の気持ちには感謝してる。



「慎太郎、今日はどうする?」

「どうって…俺は特にないけど、ゆかりさんはどこか行きたい所はある?」

「いや、ない。」

「そう、じゃあ……」

「昼寝でもするか……」

そう言って、ゆかりさんは大きなあくびをした。
さっき起きたばかりだというのにもう眠いのか?それとも、俺と二人っきりじゃつまらないってこと…?

でも、それならそれで、却って気を遣わずに済むってもんだ。



「じゃあ……」

「慎太郎、お茶でも飲むか?」

「え…?あ、あぁ…ありがとう。」

昼寝をするもんだと思ってたら、意外にもゆかりさんはお茶を淹れてくれて、俺達は茶の間で差し向かいになって、まったりとお茶をすすった。



「……子供達、どうしてるかなぁ…?」

「え…あ…うん。
きっと、元気にしてるよ。」

「……そうだよな。」

「……うん。」

それ以上会話が繋がらず、なんとも気まずい沈黙が流れた。



「え…えっと……」

「あんたらの町へは、あとどのくらいかかるんだ?」

「え……?
えっと……そ、そんなにはかからないと…思います。」

俺ははっきりとしたことが言えなくて、しどろもどろにそう答えた。



「……そうか。
……やっぱり、あたいを連れて行くのがいやなんだな……」

「え?い、いや、そういうわけじゃなくて……」

「あんたも美戎も故郷のことは絶対に教えてくれない……
いやなのなら……連れて行く気がないのなら……
どうして最初に言ってくれなかったんだ?
どうしてあたいをこんな所まで連れて来た?」

「そ、それは……」

ゆかりさんの真っ直ぐな視線に、俺はますます何も言えなくなってしまった。